「ゼロイチ」――。まだ世の中にない、新しいモノやサービス(価値)を生み出すこと。
人々の生活のスタイルを変えたり、市場環境が変化する裏には、必ずこの「ゼロ」から「イチ」をつくり出すリーダーたちの存在がある。
サービスロボットとして、あらゆるビジネスシーンで活用されている「Pepper」を生み出した林要氏もそのリーダーの1人だろう。林氏は現在も、新たなサービスロボットを世に出すために新会社GROOVE Xを立ち上げ、ゼロイチに挑んでいる。
そんな林氏にゼロイチを生み出すリーダーに求められる資質や共通点について、聞いてみた。
――林さんから見て、ゼロからイチをつくり出す人にはどんな共通点があると思いますか?
林: 「失敗に慣れている」という点ですね。新しいことに一歩を踏み出せない人の根本にあるのは「失敗したらどうなるのか」という恐怖です。
例えば、崖の上を歩くとき、初めての人はどこまで足を踏み込んでいいのか分からないので、なかなか足を動かせません。落ちてしまうかもしれないと思うからです。
しかし、何度か歩いたことがあり、しかも落ちそうになったことがある(小さな失敗を経験している)人は、どこまでなら進んで大丈夫なのか、その限界の範囲を分かっているため足を進めることができます。
ゼロイチを生み出すプレイヤーは、よく周囲からは無謀な挑戦に見えることが多いのですが、本人には、致命傷を負わないラインが見えているんですよね。だから、思い切って挑戦ができるわけです。
――林さん自身、そうした経験があったからこそ、Pepperの開発に挑めたそうですね。
林: はい。私がまだトヨタ自動車にいた頃の経験がPepperの開発につながりました。
もともとは、F1車の開発チームで、空気力学のエンジニアとして働いていました。いわゆる「職人」的な働き方だったのですが、より影響力の大きい仕事をしようと思い、量産車の製品企画部門に移動してマネジメント職へ転身しました。
そこでは、エンジンやブレーキなど、多岐にわたる専門部署を横断的に統括して、全体をマネジメントしていく必要があります。職人的な視点で仕事をしていた時代とは、全くの別世界です。
しかも私は、量産車には関わったことがないので、知識がない中でチームをまとめなければいけませんでした。つまり、かなり大きなキャリアチェンジだったわけです。
当然うまくいかないことの方が多く、上からも下からも叱られる日々が続き、まさに崖から落ちそうになる経験をしました。しかし「自分に知識がなくても、周囲をまとめて絶対にモノをつくりあげる」というこの強烈な経験があったからこそ、未経験の領域だったロボット(Pepper)開発にも抵抗なく挑めたのです。
私はソフトバンクの孫正義社長に声をかけてもらい、Pepperの開発リーダーとなったわけですが、このときの経験がなければ「ロボットをつくらないか」と誘われたとき、「やります!」と即答することはできなかったでしょう。
もし躊躇(ちゅうちょ)して、「1カ月考えさせてください」なんて答えてたら、任せてもらえなかったかもしれません。
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