「AbemaTV」の1年間を振り返る200億円投資の結果は?

» 2017年10月27日 07時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 サイバーエージェントが2016年に立ち上げたインターネットテレビ局「AbemaTV」。藤田晋社長は17年9月期(16年10月〜17年9月)を投資期と位置付け、1年間で200億円を投資すると発表した。同社の主力事業であるゲーム事業と広告事業が好調なうちに、“次の柱”を作ろうという考えだ。それから1年間、AbemaTVはどのように成長したのだろうか。

 「僕の中では『なんとかなりそうだ』という手応えを感じている」――藤田社長は10月26日の決算会見でそう語った。スマートフォン広告やインフィード広告の成長、ゲーム事業の堅調な推移により、17年9月期の売上高は3713億円(前期比19.5%増)で過去最高に。宣言通りにAbemaTVへの積極投資を行ったため、営業利益は307億円(16.6%減)、純利益は40億円(70.4%減)となった。

「AbemaTV」に200億円の投資を行ったサイバーエージェントの藤田晋社長
サイバーエージェントの17年9月期の連結業績(=サイバーエージェント決算資料)

 209億円を投じたAbemaTVは、1年間でどのように変わったか。

 ダウンロード数は2200万を突破し、1年間で約2.3倍に。MAU(月間アクティブユーザー数)は16年9月時点では約600万人だったが、17年5月以降は安定して900万人台に乗っている。WAU(週間アクティブユーザー)も、波があるものの、「着実にベースアップしている」という。利用者の年齢層は25〜34歳が最も多く、次に18〜24歳が多い(18歳未満は計測ができないため含まれない)。男女比はおよそ6:4で、17年3月時点よりも女性比率が上がっている。

AbemaTVのダウンロード数、MAU、WAU、ユーザー属性

 主要な動画サービスのMAUを比較すると、AbemaTVはトップを走る。それぞれビジネスモデルが異なるため単純な比較はできないが、国内の動画サービスのみならず、Amazon.com(アマゾンジャパン)の「Amazonプライムビデオ」の猛追も現時点ではかわしている。

主要な動画サービスMAU比較

 ユーザー数の増加は、コンテンツの充実によるものだ。200億円の投資の7割は、コンテンツ作成と調達に充てられている。

 1年間で3つ、大きな話題となった番組がある。12月の「フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」、5月の「亀田興毅に勝ったら1000万」、そして「藤井聡太四段 炎の七番勝負」(4月〜)など“藤井四段ブーム”もあった。こうした大型の企画でユーザーが増え、ベースアップにつながっているようだ。

 視聴を習慣付けるために、バラエティを中心にレギュラー番組を拡充した。恋愛リアリティーショー「真夏のオオカミくんには騙されない」は好評で、若い女性の視聴者数をけん引。テレビ朝日のニュース番組「報道STATION」や、10月には安倍晋三総理が出演した「徹の部屋」など、社会やビジネストピックを扱う番組もそろえる。

 「面白い番組を作り続けなければ、今後ビジネスモデルが成功しないというプレッシャーはある。苦しい状況だったら無謀なチャレンジだが、『なんとかなるだろう』という手応えのもと、さらに投資を続ける。18年度9月期の1年間は、制作費を増やし、売り上げを伸ばす『パンプアップ』の時期。同じようなビジネスモデルは見当たらないし出てきそうにないので、腰を据えて先行投資を続ける」(以下、藤田社長)

コンテンツの拡充に力を入れた(=17年9月期サイバーエージェントの決算資料)

AbemaTV、次の1年

 次の1年間は、さらにコンテンツへの投資割合を増やす。目玉として控えるのは、11月2日放送予定の「72時間ホンネテレビ」。元SMAPの3人が出演する長時間の特別番組で、「視聴者数はAbemaTVの過去最高を更新するのはまず間違いない。その後のベースアップも見込める」と自信を見せる。

「過去最高を更新する」と見込む特別番組「72時間ホンネテレビ」

 レギュラー番組では、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)の展開や、若者向けリアリティーショー番組のラインアップを増強。さらに、オリジナルドラマの制作も開始する。

 「Netflixが『ハウス・オブ・カード』でユーザー数を伸ばしたように、ドラマのキラーコンテンツは非常に重要。しかし、コストがかかる上に、簡単にヒットできる分野ではないので、準備を進めていた。ここで機が熟したので、18年1月から1クールのオリジナルドラマを放送する予定。一味違ったものになっている」

 次の1年間は、(1)広告商品の拡販、(2)収益の多角化――と収益面の成長も目指す。AbemaTVの収益モデルは広告と月額課金「Abemaビデオ」の2つがあるが、まずは広告モデルを強化する。AbemaTVの広告商品は視聴完了率が8割と高く、またテレビを見ない層へのアプローチが可能という強みがあるという。また、AbemaTVを中心に周辺事業を展開し、シナジーが強い事業のM&Aも強化するとしている。

 「地上波テレビのモデルとは違う形に柔軟に変えていきたい。単純なテレビCMや有料課金ではないものをリリースしていくつもり。Abemaビデオは伸びているが、まだほとんど知られていない状態。現段階ではプロモーションの時期なので、有料会員を増やそうとはしていない。Abemaビデオの周知を進めつつ、本格的に伸ばしていく時期を見ていく」

 18年9月期の業績見通しは、売上高4200億円(前年比13.1%増)、営業利益300億円(2.3%減)を見込む。広告事業はナショナルクライアントなど新規広告主の開拓を目指し、ゲーム事業は「グランブルファンタジー」「Shadowverse」「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」など主力タイトルを伸ばしつつ、新規タイトル10本を提供予定だ。マッチングサービス「タップル誕生」などの事業も育ってきている。堅調な主力事業を支えに、AbemaTVの挑戦は続く。

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