日本初の宇宙ビジネスコンテスト、大賞に輝いた女性の思いとは?宇宙ビジネスの新潮流(1/3 ページ)

» 2017年12月08日 06時30分 公開

 内閣府、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、民間大手企業が実行委員会となり、日本で初開催された宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2017」。300件におよぶ応募の中から大賞に選出されたのが全日本空輸(ANA)の現役社員である松本紋子さんが提案した、衛星データを利活用した航空機の飛行経路・高度の最適化システムだ。今回は松本さん本人にインタビューした模様をお伝えする。

日本初の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2017」で大賞を獲った松本さん(写真提供:松本紋子さん) 日本初の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2017」で大賞を獲った松本さん(写真提供:松本紋子さん)

S-Boosterとは?

 S-Booster 2017は、内閣府、JAXA、ANAホールディングス、三井物産、大林組、スカパーJSATが主催する日本初の宇宙ビジネスアイデアコンテストだ。政府の宇宙政策委員会がまとめた「宇宙産業ビジョン2030」でも言及された宇宙ベンチャー企業数の拡大に向けて、新たなアイデア発掘を目的に実施された。

 2017年6月に書類応募を受け付けて、約300件の応募があった。その後は書類審査が行われて、審査を通過した方々が審査員の前でプレゼンテーションを行い、ファイナリストを選出。ファイナリストはその後約2カ月間、メンターと呼ばれる方々と議論を重ねて、10月30日の最終選考会に臨んだ。最終選考会には、女優の剛力彩芽さん、宇宙飛行士の若田光一さんも訪れるなど華やかな雰囲気で行われた。

 さまざまなビジネスアイデアの中から、大賞に選出されたのがANAの現役社員である松本さんが提案した「超低高度衛星搭載ドップラーライダーによる飛行経路・高度最適化システム構築」だ。実は筆者自身もメンターとして松本さんと議論をさせていただいたこともあり、今回のインタビューにつながった。応募の背景、ご本人の思い、受賞後の変化などをお伝えしたい。

フライトプランを飛行中に見直したい

 私は普段ANAのフライトオペレーション推進部という部署で、パイロットが飛行するための管制運用などを記載しているマニュアルを作る業務をしています。地域は米国、カナダ、メキシコが担当です。そうした業務の一環で国土交通省航空局とFAA(米航空宇宙局)が協力して進めているDARP(Dynamic Airborne Reroute Procedures:動的飛行経路変更方式)に関わってきました。

松本さんはANAのフライトオペレーション推進部に所属。その仕事の中で今回発表した課題を感じていた(写真提供:ANA) 松本さんはANAのフライトオペレーション推進部に所属。その仕事の中で今回発表した課題を感じていた(写真提供:ANA)

 DARPは、飛行機がその飛行経路・高度を動的に変えていくための手順を作成する取り組みです。飛行経路・高度は出発の数時間前に作られ、それに従いパイロットは運航しており、原則として飛行中に経路・高度を変えることはしません。しかしながら、飛行中の最新情報を踏まえて、飛行する経路・高度を動的に見直すことができれば、燃料費の削減やさらなる安心・安全の向上が期待されることから、一部の路線でDARPのトライアル運用を実施しています。

 飛行中に経路・高度を見直すためには、運航管理者が最新の気象データを基に飛行経路を再作成し、飛行中のパイロットが承認し、最後に管制官が許可する必要があります。そして、この時に問題になるのが、経路・高度を計算するための気象データの更新サイクルと予測精度です。

 飛行経路・高度を算定するため使われている気象データは、ウィンドプロファイラという地上から観測を行うもの、飛行機に搭載されたセンサーで行うもの、さらに静止気象衛星などのデータから予測されています。この中で、特に上空の風を広域観測しているのが気象衛星の水蒸気画像なのですが、更新頻度は6時間ごとに1時間刻みの予測値を出すようになっており、飛行時間を考えると十分ではありません。

(画像提供:松本紋子さん) (画像提供:松本紋子さん)

 また、予測精度の観点でも、現在のところ、予測風の誤差は秒速で3〜4メートルほどあります。これはジェット気流の風速が30〜100メートルと言われる中、小さいと思われるかもしれませんが、それでもこの誤差により、1時間当たり最大で450キログラムにもおよぶ燃料消費の誤差につながります。旅客機は必要燃料プラスアルファを必ず積み増すわけですが、多く燃料を積むことで、機体が重くなり、二酸化炭素(CO2)の排出量も増えてしまいます。

 より高精度な気象データが手に入ることで、更新頻度が高まり、予測風誤差が小さくなればいいのにと思っていたところ、ANAの社内向けサイトにS-Boosterが紹介され、詳細を確認してみたらそれが宇宙のビジネスアイデアコンテストだと知りました。普段の業務とは違うアプローチで検討してみるのも良いのではと思い立ち、応募してみました。

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