「一蘭」にハマった外国人観光客は、なぜオーダー用紙を持って帰るのかスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2018年05月22日 08時12分 公開
[窪田順生ITmedia]
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価値を高める努力をすべき

 2017年2月7日に観光庁により発表された「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート結果」によると、16年に訪日した外国人が最も困ったこととしてあげているのは、「コミュニケーションの取りづらさ」(32.9%)である。

 ご存じのように日本は世界中に、「我々のおもてなしは世界一」だと喧伝(けんでん)している。しかし、訪れた外国人の3分の1程度の方たちは、「店やホテルでいろいろ頼んだけどほとんど伝わらなかったよ」とガッカリして帰国の途についているという厳しい現実がある。

 これはつまり、日本のインバウンド自体が、吉冨社長の言うところの「外見でうたっていることと比べて、中味が下回っている」という状態に他ならない。

 そんな生産性の低い国で、一蘭に外国人観光客がわんさかと押しかけている。しかも、その味にハマった者たちが、生産性向上の象徴ともいうべきオーダー用紙を持って帰っている――。それは、訪日観光客が失望する「コミュニケーション」を改善するヒントがここにあるからではないのか。

 先日、訪日外国人観光客は「2020年に4000万人」という目標へ向けて順調に増えているにもかかわらず、観光消費額は「8兆円」という目標達成へ向けたペースが鈍化しているというニュースがあった。17年の外国人観光客は1人当たりの消費額は15万円程度だが、これを20万円に上げないと厳しいというのだ。

 これを受けて、一部の方から「日本のよさを知ってもらうことが大事なので、金はそんなに重要じゃない」とかいう意見が出ているが、そもそも観光立国を目指すのは、人口減少社会で急速にしぼむ内需の代わりに、外国人観光客から得たお金で、持続的な経済成長や、社会のインフラ整備を行うことにある。

 稼げぬ観光立国など、社会に混乱をもたらすだけなので極端な話、やらぬほうがいい。

 我々のよさを知ってもらえばいい。大切なのはお金じゃない。そんな負け惜しみみたいな言い訳をする前に、一蘭のようになりふりかまわず、自分たちが得意とすることの「価値」を高める道を模索すべきではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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