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新たな在留資格創設、それでも不透明な人材確保どうする? 介護の人材不足問題(2/5 ページ)

» 2018年09月03日 06時15分 公開
[石橋未来大和総研]
株式会社大和総研

 国内での人材確保が難航する中、政府は国外にも目を向け、海外からの介護人材の受け入れを積極化する方針である。これまでのところ日本の介護分野で就労する外国人は、外国籍で在留期限や就労の制限がない「永住者」や「定住者」と、インドネシア、フィリピンおよびベトナムとの経済連携協定(EPA)に基づく「特定活動」を行う外国人等に限定されていた。

 そのため日本の介護分野(社会保険・社会福祉・介護事業)で雇用されている外国人労働者は2017年時点で1万3536人(※5)と、近隣のアジア諸国と比較して絶対数でも人口対比でも極端に少ない(図表3)

図表3 アジア諸国の外国人介護労働者数 図表3 アジア諸国の外国人介護労働者数

 公的な介護保険制度が整備されていないアジア諸国では、家族や外国人労働者が家事や育児の延長線上で介護を担っているケースが少なくない。そのため、単純に比較することには注意が必要だが、例えば、日本に次いで高齢化が進んでいる香港では、60歳以上単身世帯の1割が外国人家事労働者から介護等のサービスを受けている(※6)。

 仮に、日本の60歳以上単身世帯の1割が香港のように外国人介護労働者から介護サービスを受けるとすれば、70万人以上の外国人材を受け入れる必要がある。

※5 厚生労働省[2018c]「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)」

※6 The Legislative Council Secretariat[2017], "Foreign domestic helpers and evolving care duties in Hong Kong" Research Brief Issue No.4 2016 2017(July2017)

新たな在留資格等による外国人材の確保は不透明

(1)新たな在留資格の創設

 安倍晋三内閣が2018年6月15日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2018」(骨太方針2018)において、外国人材を受け入れるための新たな仕組みを構築する方針が示された。

 具体的には、「真に必要な分野に着目し、移民政策とは異なるものとして」、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を幅広く受け入れるための新たな在留資格が創設されることになった。これは、現行の専門的・技術的な外国人材の受入れ制度を拡充するものであり、受け入れ業種は「生産性向上や国内人材の確保のための取組(中略)を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受入れが必要と認められる業種」とされている。

 各種報道によると、政府は介護や農業、建設などの5業種を少なくとも想定しているという。

 新たな在留資格では、事業所管省庁が定める試験等で判定される技能が求められるほか、日本語能力は生活に支障がない程度の能力を有することが確認されることを基本としつつ、受け入れ業種ごとに業務上必要な日本語能力水準を考慮して定められる。技能実習(3年)を終了した者については、必要な技能水準および日本語能力水準を満たしているとして、こうした試験等が免除されるなど、現行の在留資格の要件からは大幅に緩和されたものになる。

 つまり、新たな在留資格の下では、現行の要件を満たさなくても長期の在留が認められる可能性がある。例えば、現行制度では、技能実習制度の枠組みで入国した外国人材は実習期間終了後に帰国することになっている。EPAの枠組み等以外で日本の介護現場で就労するには、留学生として入国し、日本の介護福祉士養成施設で2年以上修学して介護福祉士資格を取得する必要がある。

 介護福祉士資格取得後は、在留資格を「介護」(※7)に変更して長期の就労が可能である(図表4)。しかし今後は技能実習を終了すれば、新たな在留資格に移行して最長5年間の就労継続が可能になりそうだ。また、滞在中に介護福祉士資格を取得するなどした場合、在留資格「介護」など既存の専門的・技術的分野における在留資格に移行できるルートも検討されている。

図表4 技能実習後に介護現場に就労するルート 図表4 技能実習後に介護現場に就労するルート

 さらに骨太方針2018では、「介護の技能実習生について入国1年後の日本語要件を満たさなかった場合にも引き続き在留を可能とする仕組みや、日本語研修を要しない一定の日本語能力を有するEPA介護福祉士候補者の円滑かつ適正な受入れを行える受入人数枠を設けることについて検討を進める」ことも盛り込まれ、技能実習生やEPA介護福祉士候補者に求められる日本語能力の要件も緩和される見込みである。

※7 2016年11月に「出入国管理及び難民認定法(入管法)」が改正され、2017年9月から在留資格に「介護」が加えられている。「介護」の対象者は、日本の介護福祉士養成施設(都道府県知事が指定する専門学校等)を卒業し、介護福祉士の資格を取得した者である。

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