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『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【前編】マシリトが行く!(5/8 ページ)

» 2019年07月19日 05時00分 公開
[伊藤誠之介ITmedia]

出版社は「もう終わり」

原田: それは大きな出版社であればあるほど、取次会社とか印刷所とか、そういうところとがっぷり手を組んでいて、デジタルに特化すると、それらと手を切ることになるので逆にできない、と。そのため小さい出版社のほうがデジタル化への取り組みが早かったり、あるいは出版社以外のゲーム会社などがデジタルコミックという形で漫画の配信に乗り出したりして、それに比べると大手出版社のほうがデジタル化に乗り遅れた形になっています。そういう状況が今現在においても、変わっていないということでしょうか? 

鳥嶋: 変わらないですね。最近思うのは、漫画というのは出版社をはみ出し始めているんですね。どういうことかというと、出版物でくくれないんです。さっきも言いましたけど、漫画というのはアニメやゲームの基になるし、国境も簡単に越えていくわけです。

 出版社のビジネスは今まで、雑誌に載って単行本になって、しばらくするとアニメになるという時間軸で区切るのと、国境及び言語で区切っていて。要するに、ゆっくりとビジネスを進める基盤があったんですね。ところがデジタルによってこれが全部崩れてくる。時間軸も崩れてくるし、国境の問題も崩れてくる。出版社はこれに対応しきれていないんです。

 もっと言うと、今のところ大手出版社は漫画しか儲からないんです。漫画で得た利益を漫画の周辺に戻さずに、他の雑誌や出版部門の赤字の補填(ほてん)にしちゃうわけですね。だからはっきり言えば、出版社自体はもう終わってます。雑誌ももう終わりです。だけど、ここで大事なことは、漫画自体はさっきも言ったように、コンテンツを生んで変換していく可能性があるので、生きています。

 だとしたら、終わっているビジネスと、まだ可能性のあるビジネスとをどう切り分けるかということが、僕は今、出版社の幹部が考えなきゃいけない問題だと思っています。これを一緒にしたままで、出版社としてなんとか形を保とうとしているがゆえに、いろんな齟齬(そご)をきたして、いろんなバカなことをやっている。いろんなことがブレていると、僕は思っています。

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