今回は竹書房が話題を呼んだが、日本の出版社がネットの海賊行為に厳しく対応するケースは近年、目立って増えている。19年7月には講談社が訴訟を起こしていた海賊版コンテンツへのリンクサイト「はるか夢の址(あと)」の運営者らに実刑判決が下りたし、巨大海賊版サイト「漫画村」元運営者への告訴・逮捕もなされている。
海外でも大きな動きが相次いでいる。19年12月に海外の巨大海賊版サイト「Mangastream」が閉鎖した。大手掲示板Redditは、集英社が正規配信する作品の海賊版へのリンクを削除すると発表した。こうした動きの詳細は不明だが、日本の権利者からの積極的な活動もあったと推察される。
それでもマンガにおけるネット海賊版への取り組みは、他のコンテンツに較べてかなり遅れている。アニメ・ゲームよりは1周遅れとの印象だ。
アニメ業界では10年初頭に海外向けの正規版同時配信の普及拡大が海賊版の影響力を大きく削いだし、ゲーム業界ではゲームダウンロード販売のsteamの進歩が同様の効果を発揮している。
海外でマンガの海賊版が深刻になり始めたのは00年代半ば、今から10年以上前だ。当初はアニメと較べてマンガの海賊版は翻訳・制作が難しいと見なされ、それほど普及しないだろうという楽観論もあった。しかし、翻訳や配信の仕組みは短期間で高度にシステム化され、さらに広告や有料アプリの導入などで収益化した。瞬く間に海賊版マンガが巨大産業の様相を呈する。
Googleのグローバルアクセス数ランキングトップ100に、日本マンガの違法配信サイト名が出るまでの事態になる。それに合わせて海外での正規版マンガの売上高が急下降した。10年には日米のマンガ関連企業が主要サイトに配信停止を要求する共同声明を発表したこともあったが、その後も法的処置まで進む例は少なかった。
やはり理由は法的な手続きのコストと、1つをつぶしても、また新たな違法サイトが登場するイタチごっこにある。マンガ業界では、正規配信のシステム構築が遅れてきたのも大きい。たとえ海賊コンテンツの削除に成功しても、正規で作品を楽しめる場所がなければ、新たな海賊行為の手段が生まれるだけだ。
海賊版を抑えるために、「大規模で廉価な正規版配信の仕組みが必要」との指摘はたびたびされてきた。ファンからもマンガの正規配信を求める声は大きい。
ただ「もっと早く」「もっと安く」「もっと大量に」と、さらには海外でも現地語版の日本発売との同時リリースを求めたり、それを「無料で」と言う人もいるなど、ファンからの要求は限りない。日本の出版社には「とても無理」と思える注文も少なくない。なかなか海賊版問題は克服できないとの見方も強かった。
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