長年、アニメーターの手描きに支えられてきたアニメ製作の在り方が大きく変わろうとしている。CGだけでなく、ソフトやAI(人工知能)などが、描画を自動で手掛けるようになってきたのだ。果たして人間抜きでシステムがアニメを創り上げる未来は来るのか。人間のアニメーターの仕事はどう変容するのか。最前線を追った。
最初と最後の絵を描くだけで、自動的にアニメが仕上がっていく。そんな夢のようなシステムが、できるかもしれない。シンガポールで開発されたアニメーション制作ソフト「CACANi(カカーニ)」がそれだ。
CACANiはキーとなる絵(原画)を人間が描くだけで、アニメの中で連続する「間の動き」部分の絵を自動的に生成する。業界で「中割り」と呼ばれる動きのシークエンス(連続性)の間部分を埋めていくのだ。特に日本の手描きアニメに力を発揮している。1990年代から開発が進められ、2010年中頃より日本でも制作現場に投入されるようになった。開発会社による長年の努力のたまものだ。
『キャプテン翼』や『炎炎ノ消防隊』『あんさんぶるスターズ!』といった人気作品にCACANiの名前がクレジットされることに気付いている人もいるかもしれない。これらの作品の一部にCACANiの技術が活用されているのだ。いずれの作品もフジテレビジョンのグループ会社であるデイヴィットプロダクションが制作する。同社は18年にCACANi社と研究開発のパートナーシップを結び、積極的にアニメーション制作へ導入している。
もちろん微妙な表情や、複数のキャラクターの複雑な動きを描かせるのは難しい。既に存在している絵の線を動かすだけであり、新たな線を生み出すわけでもない。それでもキャラが振り向く動きやメカの動きなどはCACANiで十分対応できる。さらに日本アニメに特徴的な、「タメ・ツメ(力をためるような動きの部分と、実際に強く動く部分。キャラの動作にメリハリが生まれる)」という均等でないコマ割りも指示できる。
こうしたアニメ作画の自動化の試みは、アニメ制作にお金がかかること、そして近年ますます深刻化する人材不足への対策が理由にある。
実写映画やドラマ、バラエティ番組の深夜番組などであれば、(出演料やセットなどの工夫で)制作費はかなり絞り込むことも可能だ。しかしアニメ制作は30分枠の番組になるとどうしても1000万円以下には収まらない。作品により現在は30分1話でその数倍も珍しくなくなりつつある。
アニメ制作が高くつく要因としてあるのが、他の映像作品と較べて特に絵を描く部分で人員と時間コストがどうしても多く掛かる点だ。アニメ制作の予算は「人×時間」で大きく左右され、“人件費の固まり”と言われることもある。
絵作りはアニメーターのクリエイティビティと技能に依存していることから、デジタル化や自動化は困難と長年考えられてきた。一方で高度な技術を持つアニメーターは短期間で育たない。長年、過酷とされてきた労働環境もあり、人材不足は深刻化している。
同時にアニメスタジオでは、CGの導入による制作工程の複雑化に加え、そのための設備投資も増している。近年、アニメは映像作品の中でもとりわけコストのかかるジャンルになっているのだ。
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