こうしたコスト問題を解決する手段として、液晶タブレットにタッチペンで描く「デジタル作画」や今回の中割りの自動化といった、描画の省力化を図るアイデアやテクノロジーが注目されはじめた。実際に昨今のアニメ関連ニュースに注目すると、新しいテクノロジー関連の動きが活発であることが分かる。
エイベックス・テクノロジーズ(東京・港)と、VR開発を手掛けるエクシヴィ(東京・中央)は、VRを使って絵を描く技術「AniCast Maker」の商用化への取り組みを明らかにした。VR空間での役者の動きをリアルタイムでアニメーションの絵に変換することで、手で絵を描いたりCGでモーションをつけたりする必要が無くなるという物だ。描画技術やCGの知識がなくてもアニメを動かせるVRの技術は、既にバーチャルアイドルとして注目されるVTuberで積極的に活用されているが、これをアニメ制作に応用する。人手と時間がかかる部分を一挙に効率化できるわけだ。
Live2D(東京・新宿)も同様に描画の自動化を手掛ける企業だ。こちらは2Dで描いたイラストレーションを3Dとして動かす「Live2D」の技術を中核にしている。すでにゲーム映像では広く活用されているが、18年3月には大手アニメ会社のアニプレックスと共同で長編アニメを制作中と発表した。
さらに、アニメ描画の自動化で今後注目されそうなのがAIである。アニメ制作に限らず、効率化、自動化が求められる分野で、人口減少の問題を切り開く期待の技術として期待が高まっている。これまで人間が行っていた高度な判断をAIが自動でこなすことで、多くの仕事を効率化することができるからだ。
最初に挙げたCACANi自体は、AIを使ったものではない。人間が描いた絵と絵の間をつなぐ動きを、与えられた描線を最適なタイミングで動かして描写するという単純な仕組みだ。キャラが動くタイミングやその長さの判断、複雑な動きの描写は人の手にゆだねられている。しかしここにAIの持つ高度な学習機能が加わったらどうだろう。
それが、2月にDeNAが「DeNA TechCon 2019」で発表した、AIを使って作画を自動生成する新技術だ。
これはCACANiと同様に自動で中割りを生成する物だが、キャラクターを2Dでなく3DにすることでAIを活用しやすくしている。もともとDeNAが持っていた、実写動画でフレーム(静止画像の1コマ)同士の中間部分を自動補完する「Frame Interpolation」の技術を元に、さらに人の身体のような複雑な構造を持つ物体の動画においても、中割りの作成を可能にした。これによってアニメの中割りを生み出すことができる。
18年にオー・エル・エム(東京・世田谷)の開発グループが発表したアニメ向け自動彩色ソフトにもAIが活用されている。アニメの彩色には、アニメーターが描いた絵に設定に合わせた色彩を塗る作業が必要だ。この色指定の判断と実際に塗る作業をAIが行う。
キャラクターやメカニックのかたちと色を覚えさせ、動画で描かれた絵の形から適切な色を選択していく。奈良先端科学技術大学院大学(奈良県生駒市)の向川康博教授らの研究グループと中村哲教授らの研究グループが、大量のデータを蓄積・解析するディープラーニングの技術を活用することで実現を目指している。
しかし、AIのアニメ制作への応用は開発段階の部分も多く、課題はまだまだ多そうだ。例えば自動彩色だと、今の技術では仕上がった後に人の目による確認がどうしても必要になる。結局人に依存する部分は大きく、現段階では必ずしも大きな効率化につながるとは言えない。
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