さらに大きな問題として挙げられるのが、やはり「技術的にどこまでアニメ制作の自動化を進めることが可能か」というポイントだろう。エンタメは人間の活動の中でも一番創造的な分野とも言われるが、どこまで自動化が可能なのだろうか。
ゲーム分野におけるAIの専門家である三宅陽一郎氏に筆者が聞いたところ、「AIが得意とするのは『学習する』ことだ。そしてどこまで(自動化を)進められるかどうかは、データラーニングの量にも依存する」との答えが返ってきた。逆に言えば、AI自体が新しいものを生み出すことは難しいことになる。AIは与えられたデータから最適解を見つけ出すことはできるが、AI自体が創造性を生み出せるわけでないのだ。
一方でディープラーニングさえうまくできれば、優れたクリエイティブ(創作)をトレースするのはAIの得意とする作業になることだろう。
例えば、「金田作画」と呼ばれるアニメの動きの表現がある。1970年代から2000年代に『劇場版 銀河鉄道999』や数々のロボットアニメ製作で活躍した、アニメーターの金田伊功氏が得意としたメリハリのついた動きで、アニメファンにはよく知られているものだ。
金田作画では動画と動画の間は均等でなく、大胆な動きの省略・拡張を特長としている。これらもAIに学習させることで、将来的には再現することが可能になるかもしれない。
AI導入の別の課題としては、コストの問題もある。三宅氏によれば名アニメーターの作画における「特徴的な動き」をAIに学習させるには、元となる大量のデータのディープラーニングが必要になる。
アニメーターが描いた優れた「動き」をAIにトレースさせるにしても、その前提となるデータはどこにあるのか。それをどうやって集めるのか。データを読み込ませる手間とコストがどれだけかかるのか。こう考えていくと、AIの技術を開発して導入した時に、果たして採算性が合うのかが問題となる。
それでも読み込むべき大量のデータがうまく見つかり、開発当初に発生する大きなコストにも耐え、システムをいったん完成させてしまえば(その後のシステム)アップデートのコストは減らせるかもしれない。AIによる自動作成の仕組みが広く普及すれば、作品、仕事量単位でのコストは下がるはずだ。導入における最初のヤマを越えると、一挙に導入が進みやすくなるかもしれない。
むしろ最大の焦点は、「AIで人間側の仕事がどう変わるか」という点にあるかもしれない。
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