耳を疑う、武田総務相の発言 携帯値下げ「メインブランド以外は意味なし」指摘への戸惑い本田雅一の時事想々(2/4 ページ)

» 2020年11月23日 09時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 武田総務大臣の発言を要約するならば、多くの消費者が大きなシェアを持つ3キャリアを選んでいる現状の中で、この3キャリアが低価格プランを用意しなければ、実質的に低価格プランを消費者は選択できないという趣旨である。

 武田氏はこの発言以前に、値下げされたプランを評価すると発言していた。つまり、値下げ幅については大きな問題はなかったと捉えることができるだろう。

 問題は多くの人が使っている大手キャリアが、低価格なプランを提示しないのであれば、ユーザーは結局、大手キャリアに縛られたままになるから、サブブランドでの低価格プランに意味はないと言っているのだ。

 ところが、この趣旨は総務省が10月27日に発表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクションプラン」の理念とは対極にある。

 総務省が進めてきたことを、筆者なりに要約すると、3つの言葉に置き換えられる。

 (1)消費者にとって分かりやすく、納得感のある料金プランの実現、また(2)多様で魅力的なサービスが用意されること、そして(3)事業者間の乗り換えを容易にすることだ。

photo 総務省が発表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクションプラン」の概要=総務省の資料より

 料金を安くするだけでは、品質を選択する自由は生まれない。高品質で手厚いサポートや付帯機能があるサービスから、シンプルだが高品質なサービス、あるいはシンプルかつ最低限の品質だが低廉なサービスなど、内容に応じた多様な商品が提供され、さらにはその品質や機能、サポート内容などが可視化され、乗り換えも自由となれば、自ずと事業者間の競争が促される。

 こうした目標のため、MNP(電話番号をそのままに他事業者に乗り換える仕組み)の原則無料化、eSIM(物理的デバイス不要なSIM)の普及、キャリアメールの転送サービス(事業者依存のメールサービスを無効化)などが進められてきた。

 しかし大手キャリアが総務大臣の意向を受け、サブブランドではなくメインブランドで低廉なサービスメニューを開発すべく動き出せば、消費者はメインブランドのまま低廉なプランに乗り換えるだけで良いことになる。

 近視眼的には菅総理大臣の目標とする携帯電話料金の引き下げという目標を達成できるかもしれないが、アクションプランが目指していた「ユーザーの流動性を高める」ことにはならず、中長期的には日本の携帯電話網全体の品質を下げることになるだろう。

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