――こうして12年2月、『やくも』がフリーコミックとして世に出ることになります。「多治見ものがたり」とのつながりはどこにあるのでしょうか。
プラネット社内にチームを作ってから2年ぐらいかかってしまいましたが、なんとか世に送り出すことができました。
『多治見ものがたり』とのつながりは、例えば主人公・姫乃の家の喫茶店名が「喫茶ときしろう」というのですが、この「ときしろう」は「多治見ものがたり」に登場する川中時四郎に由来しています。
――なぜ、フリーコミックという形態で世に出そうと思ったのでしょうか。
僕の師である堀先生の教えに、「人のやっていることに多くの時間を使うことは人生のムダ遣い。だから人がやっていないことをやりなさい」というものがあります。だから、誰もやっていないフリーペーパー誌上での漫画連載という形で実施したわけです。
――『やくも』のビジネス展開にも亡き師である堀貞一郎さんの教えが根付いているわけですね。
メディア展開だけでなく、作品そのものにも堀先生の教えは染みついています。実は『やくも』の制作にあたっては、『やくも』に似た形のほとんどのアニメを見て私も研究したんですよ。ただ、これはトレンドを知るのが目的ではなく、実は“アイデアを捨てるため”なんです。これも、堀先生流です。
堀先生も東京ディズニーランドを作る際に、さまざまな場所に視察に行かれました。普通、視察に行く場合には、いろいろなものを見ることでアイデアを取りに行くのが目的だと思うんですけど、堀先生は逆なんですね。捨てに行くんです。現場を実際に見て「これはやらない。あれもやらない」と決めるんです。あるものを探すより、無いものを探すほうが難しいし、価値があります。
――それで、陶芸部を舞台にした女子高生の日常、という例のない作品が出来上がったわけですね。
その通りです。『やくも』のメディア展開にしても、フリーペーパーからアニメ化が決定して、アニメ化が決まってからコミックが現在連載されています。前代未聞ではないでしょうか。人のやっていないことをやったんです。堀先生の教えを実践できたと思います。
――堀貞一郎さんの経歴を見ると、「陶芸家」という肩書もお持ちです。ここも『やくも』に通じるものがありますね。
仕事を現役でやられていた時から、作陶が趣味でした。『多治見ものがたり』の中にも陶芸の話は出てきますし、実際に多治見に来られて作陶されたこともあります。
ただ、それよりも30年以上前から、多治見とは深いつながりがあったようです。東京ディズニーランドを設立するにあたって、世界中の場所を視察に訪れていて、その記録が何巻にもなって保管されています。その1巻目に、多治見を訪れた記録が残っているんです。アルバムの表紙にも「土岐多治見」と書かれてました。
――堀貞一郎さんと多治見にはつながりがあったんですね。もしかすると東京ディズニーランド設立を考えたのかも……。
作陶が趣味な方でしたので、他にも備前や箱根も回られていたようですね。いろんなところに自分の作陶場を持っていました。
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