金融に革命をもたらす「組込型金融」(エンベデッド・ファイナンス)の可能性なぜ、注目されているのか(2/2 ページ)

» 2022年01月11日 07時00分 公開
[ITmedia]
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 例えば、銀行機能をサービスとして提供するのであれば「BaaS」、保険機能であれば「IaaS」のように、エンベデッド・ファイナンスに近い概念はこれまでも検討されてきた。しかしこれらの言葉は、あくまでそうしたサービスを提供するプロバイダーやイネーブラーの視点から表現されたものだった。

 一方、エンベデッド・ファイナンスは、金融機能を実際に利用するエンドユーザーや、ブランドの立場から見た表現に近いといえるだろう。そこには「既存のサービスに金融機能が埋め込まれる、それが新たな価値を生む」というニュアンスが込められている。

 実際、これこそエンベデッド・ファイナンスが注目される大きな理由の一つだ。金融サービスは「サービス」という名前が付けられているものの、それ自体が目的になることは少ない。

 例えばUberの配車サービスでは、客が望むのは車で目的地まで移動することであり、「最後に料金を支払うのが楽しみで仕方ない!」などという客はほとんどいないだろう。「お金を払う」という行為は、むしろ配車や移動という目的を達成する前に立ちふさがる、ハードルのような存在である。

 エンベデッド・ファイナンスであれば、そうしたハードルを取り除くことができる。ユーザーが目的としているサービスの中に、金融機能を組み込む、あるいは埋め込むことで、ユーザーが意識しないまま、金融に関する手続きが完了するのだ。それによりブランドは、自社サービスの魅力を高め、新たな顧客の獲得や既存顧客の維持を達成できる。

 実際に、アクセンチュアが実施したGlobal Business Perspectives on Embedded Financeというアンケート調査では、エンベデッド・ファイナンスによって金融系のソリューションを提供し始めた非金融系企業の85%が、新規顧客の誘引・獲得に成功したと回答している。

 また自社が持つデータやサービス基盤を活用することで、より良い金融サービスを実現することを目指す企業も登場している。例えばEVメーカーとして有名なTeslaは、自社製品の購入者に対し、通常の自動車保険よりも安い料金で保険を提供している。これを可能にしているのが、エンベデッド・ファイナンスの仕組みと、Tesla自身が持つ膨大なデータだ。彼らはそれらを活用して、独自のリスクモデルを構築し、ユーザーにとってもメリットのある形で保険を提供しているのである。このように、ブランドはより優れた金融サービスを提供し、新たな収入源を手にできる可能性がある。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 一方で、金融機能を提供する金融機関の側にもメリットがある。さまざまな企業に、さまざまなサービスで金融機能を埋め込んでもらうことで、自社だけではリーチできなかったような、新たな顧客層との接点を持てる可能性があるのだ。

 UberやTeslaのように、大規模な顧客基盤、あるいは富裕層の顧客基盤を持つ企業と提携し、それを活用できるのは金融機関にとって大きな魅力だろう。他にもこれまで想像すらできなかったような、全く新しいチャネルを通じて、金融機能や商品をエンドユーザーに届けることが可能になるかもしれない。

 冒頭で紹介した、Andreessen Horowitzのアンジェラ・ストレンジ氏は、「あらゆる企業がフィンテック企業になる」のプレゼンテーションの最後に、「本当にエキサイティングなのは消費者としての私たちだ」と述べている。

 そう遠くない未来、自分がどのような社会的・経済的集団に属していようと、あるいは世界のどこに住んでいようと、あらゆる金融サービスを手ごろな料金で利用できるようになる――それが彼女の描く、エンベデッド・ファイナンスが普及した世界だ。そんな金融サービスの革命的な変化を、私たちはこれから目にすることになるだろう。

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