以前、私たち「老いの工学研究所」が発行する情報誌“よっこらしょ”のインタビューで、歌手の加藤登紀子さんに話を聞いた際、「男性は、家庭生活を女性に依存しすぎよ」とおっしゃっていたが、その通りの数字だ。もちろん、他に家庭内で重要な役割を担っていたり、外で何かの役割を持っていたりするのならよいのだが、現状、男性高齢者のひきこもり傾向が問題になっているくらいだし、この調査でもそのような部分は見当たらない。つまり、「男は仕事、女は家庭」の“仕事”がなくなって、「男は○○、女は家庭」となっただけの、自分の役割が見いだせない状態と想像できる。
ここから分るのは、仕事を引退して生活が変わっても、それまでの価値観は容易に変えられないということだろう。プライドが邪魔をして、地域に馴染めなかったり、活動に参加できなかったりするのはその典型だ。また、引退してから何か新しいことに取り組んだとしても、家事を含めてすぐにできるようになるほど簡単ではないから、面白くもないし継続が難しい。
早めに引退後の計画と準備をするのが重要だと言われるが、そういう個人の心掛けを説くレベルでは、この状況はなかなか変わらないだろう。男女の役割に関する前時代的な価値観を変え、仕事以外の役割・活動を持つ男性を増やすには、ワークライフバランスや男女共同参画の推進・浸透が効果的だ。これらは、男性が抵抗しがちなテーマではあるが、実は、自分たち男性が年をとったときに生き生きと暮らすために、自分たちの引退後の生活の充実にとって重要なのである。(川口雅裕)
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