廃線と廃車、近江鉄道が抱える2つの危機:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
滋賀県の近江鉄道を訪ねた。琵琶湖の東岸地域に路線網を持ち、地元からは「ガチャコン」の愛称で親しまれているという。しかし、鉄道部門は長らく赤字、バス事業などの黒字で支えられてきた。その経営努力も限界を迎えつつある。
鉄道路線に存続の危機
2017年12月20日の中日新聞滋賀版によると、近江鉄道は沿線自治体に対し、鉄道の単独経営困難の見通しを伝えた。彦根藩士と近江商人の立案によって建設され、開業時は赤字に苦しんだものの、多賀大社の参詣輸送や貨物輸送などで利益を上げてきた。しかし、自動車の普及、貨物輸送の廃止などで業績は悪化。1994年から23年間にわたって赤字となり、2016年度決算では過去最大の赤字、3億円の大台を超えた。
これまではバス事業など他の部門の黒字で埋め合わせてきたけれども、今後、老朽化した鉄道施設や車両の更新の費用を考えると、収支の改善は難しい。そこで近江鉄道は沿線自治体に支援を求めた。「まず鉄道が必要かどうかを地域で考える」「必要であれば存続するための方策を考えてほしい」という。
現状では近江鉄道は鉄道の赤字を他の部門の黒字で埋め合わせている。従って、近江鉄道という会社自体に自治体の支援は難しい。考えられる方策としては「近江鉄道の鉄道部門を分離して、自治体の支援先を明確にする」「鉄道の線路設備を自治体または自治体主導の第三セクターとし、近江鉄道が列車の運行を継続する公設民営とする」「鉄道利用の少ない赤字路線をバス転換して、近江鉄道の負担を減らす」などがある。
中日新聞の記事によると、近江鉄道は鉄道路線の損益分岐点を、輸送密度(1キロあたりの1日平均輸送人員)2000人としている。現在の近江鉄道でこの基準を達成している鉄道路線は、本線の彦根〜高宮間と八日市線のみ。本線の大部分と多賀線は赤字で、バス転換したいと考えているようだ。赤字の鉄道を運行経費の少ないバスに転換すれば、現在黒字の鉄道路線が赤字転落しても支えられる。
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