Bell LabsのR&D責任者、モバイルインターネット時代における企業の課題について語る

今後も企業におけるネットワーク帯域要求は高まり続け、「全国規模のネットワークでは40Gビット、都市域/エンタープライズソリューションでは10Gビットが標準」になるとBell Labsのジェフリー博士は予想する。そのため企業では、ネットワークを総合的に考察して取り入れようとするプランニングが重要な課題となる。

» 2004年07月02日 14時34分 公開
[IDG Japan]
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 Bell Laboratories(Lucent TechnologiesのR&D部門)で研究開発/先進技術担当社長を務めるジェフリー・ジャフィー博士に与えられた任務は、Lucentの各業務部門が新技術を開発・配備するのを支援することだ。InfoWorldでは、企業内のネットワークコミュニケーションにおける次の大きな進化に関するLucentの見通しと取り組みについてジャフィー氏に話を聞いた。

――企業内ネットワークにおける次の大きな進化はどのようなものでしょうか?

ジャフィー 最も重要な変革の一つは、モバイルインターネットが実現することだろうと思います。企業を取り巻くあらゆる状況、つまり企業のバリューチェーン全体がインターネットによって一変しました。そして今、第3世代携帯(3G)による高速データ通信が普及しつつあります。これは、企業の従業員全員がいきなり鎖から解き放たれることを意味します。例えば、外回りの営業スタッフは、サーバに保存された企業データにセキュアな形でアクセスできるようになるわけです。これが次の変革の内容であり、ITマネジャーはこれに注意を払う必要があります。

――ITマネジャーはどんな準備をする必要があるのですか?

ジャフィー 何よりも大切なことは、アプリケーションを対応させることです。ワイヤレスインフラ自体について言えば、サービスプロバイダー各社から、非常に高速なデータ通信能力が提供されるでしょう。その際に企業がしなければならないのは、そのアクセスをセキュアなものにすることです。それには、従業員のPC用に3G技術に対応したデータ通信カードを購入する必要があります。それだけでなく、Sales Force Automation(営業支援)や物資調達といったエンタープライズアプリケーションにもフォーカスする必要があります。通信業界から登場する新しいインフラに、これらのアプリケーションを対応させるということです。

――そのためには企業は何をすればいいのですか?

ジャフィー 基本的には、事前に準備をすること、そしてテストを実施することだけです。原理的に言えば、高速無線リンクは高速有線リンクよりも劣る点はないはずです。当然、プラグ&プレイ機能も備えていなければなりません。しかし高速無線リンクを実際に機能させるには、インフラを準備し、サービスプロバイダーから提供されるサービスに対して準備するとともに、大規模配備を行う前に十分なテストを実施する必要があります。

――セキュリティ問題はどのくらい深刻なのでしょうか、またこの問題は解決に近づいているのでしょうか?

ジャフィー ここ数年、広範な種類のセキュリティ製品が利用可能になりました。ファイアウォール、侵入検知装置、ウイルス防止ソフトウェアなどです。セキュリティ関連の製品という面では、状況はかなり良いと言えます。重要なのは製品を購入することではなく、システムとネットワークに対して適切なセキュリティ評価を実施することです。企業のセキュリティを強化するというのは、製品を購入することと同じではありません。セキュリティというのは、ポリシー、実装、実行に関することなのです。

――必要なセキュリティ手順を実装するためには、企業はどう変わる必要があるでしょうか?

ジャフィー このプロセスは革命というよりは進化です。すなわち、企業は以前からセキュリティを重視してきたわけです。しかしモバイルインターネットに対応しようとするとき、セキュリティに関して新たな懸念が生じるのです。携帯電話がスパムにさらされるというようなことがあってはなりません。こういった事態を避けるために準備する必要があるのです。

――そういったことは既に、ある程度起きているのではありませんか?

ジャフィー ええ。ですから、セキュリティに対しては革命的というよりは漸進的なアプローチとなるわけです。

――ほかにも対処すべき重要な問題はありますか?

ジャフィー パフォーマンスも重要な問題であることは確かです。多くの人々がWebにアクセスするのに利用している有線技術の世界にもパフォーマンス問題は存在します。World Wide Webが「World Wide Wait」と皮肉られた時期もありました。このため、Webサーバからデータを取り出そうとするモバイルユーザーが十分なパフォーマンスを得られるようにすることが重要な問題になるでしょう。

――社内ネットワークに関して言えば、企業に影響を与えるような取り組みが数多く存在します。セキュリティとモバイルインターネットのほかにも、企業はどのような問題に対処する必要がありますか?

ジャフィー ビデオやIP電話などの利用拡大に伴って生じた結果の一つに、帯域幅需要の増大があります。企業の間では、「社内ネットワーク内での通信およびサービスプロバイダーとの接続に必要とされる帯域幅に対応するには、単なるイーサネットスイッチングアーキテクチャを導入するだけでなく、SONETをベースとした本格的な光通信技術を配備する必要がある」という声が多くなっています。このため、光通信技術は今後もどんどん成長するでしょう。全国規模のネットワークでは40Gビットが標準になるでしょう。都市域/エンタープライズソリューションでは10Gビットあるいは2.5Gビットが標準になり、企業はこの分野でもさらなる取り組みが必要です。

――つまり、現在の帯域幅をより有効に活用するという新しい時代に向かっているということですね?

ジャフィー そうです。帯域幅を有効に活用する必要があるのは、帯域幅の需要が拡大しているからです。人々がインターネット上でビデオをやり取りするのが当たり前になりつつあり、企業での帯域幅要求は飛躍的に増大すると予想されます。この場合もやはり、企業内で光通信技術の利用を促進することが最善のソリューションです。

――ビデオは、映画をダウンロードする家庭ユーザーにとって重要になると思いますが、企業ではどれほど需要があるのでしょうか?

ジャフィー 個別分野に目を向ければ、特に医療分野などにおいて、特定業務用アプリケーションで新たな形の共同作業を実現する手段として、異なる場所にいる専門家の間で実際にビデオをやり取りしたいという要求が出てくるでしょう。全般的な視点で見た場合でも、研修用教材がビデオの形でやり取りされるケースが増えると思われます。また、もう一つの非常に重要な汎用アプリケーションであるパーソナルビデオカンファレンスも普及するでしょう。これまでビデオカンファレンスがあまり活用されてこなかったのは、単に帯域幅の制約があったからに過ぎません。しかし帯域幅の問題は解決されつつあります。帯域幅の価格が低下する一方で、ますます可用性が高まり、エンタープライズアプリケーションの新たな次元での活用を促すとともに、企業内のIT部門および通信担当部門に対するインフラ要求を促すものとなるでしょう。

――通信という視点で見た場合、企業にとって最大の短期的課題は何でしょうか?

ジャフィー これまでの状況を見れば、技術に関して多数の選択肢が存在し、その中から選択するのは往々にして難しいことがありました。DSL接続もあれば、光通信方式のT1回線やワイヤレスもある中からどれかを選ぶわけです。こういった困難な判断をするというのは、複雑な芸術のようなものです。ネットワークを設計するという作業も複雑な芸術です。これを徹底して追及するだけのスキルを持った企業は非常に少ないと思います。Lucentには、企業ユーザーがネットワークをプランニングするのを支援するワールドワイドサービス部門があります。ネットワークのアーキテクチャが適切であれば、インプリメンテーションは比較的簡単だと言えます。アーキテクチャを間違えれば、その企業は何年も遅れる可能性があり、これは非常に危険なことです。



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