Movable TypeでBlog文化を創り上げた男、Six Apart平田氏に聞くMTとBlogの今後

Blog文化を支えていると言っても過言ではないMovable Type。2004年になってシックス・アパートへ転身し、MTへの取り組みに全力を傾けることになった平田氏。MTコミュニティでも人気の同氏に、MTと同社、そしてBlogコミュニティについてを聞いた。

» 2004年07月07日 20時42分 公開
[聞き手:木田佳克,ITmedia]

 サーバサイドBlogツールの代表格といえば「Movable Type」。そう言われるほどまでに知名度を高めた背景は、Blogの機能性が新たなコミュニティの形を生んだことだという。次期バージョン3.0のリリースを控える多忙な中、国内で最もMovable Type(以下、MT)に深く関わり、日本法人設立を機に移籍されたシックス・アパート、技術担当執行役員の平田大治氏に話を聞いた。

 次期3.0は7月7日現在、Developer Edition日本語版が公開されているが、次期ベータリリースではグローバル公開を認めるなど、現状よりもライセンスを緩くしたものを予定しているという。MT 3.0サイトが増える日は近い。

Movable Typeに関わるBlog書籍の著者でもある平田氏。I社とのパイプが太いが、こちらもI社

ITmedia いつも平田さんのBlogを拝見しています。まず最近に、最近書かれていたサンフランシスコの渡米感想から聞かせてください。

平田 そうですか(笑。米Six Apartは、非常に先鋭なエンジニアが中心の会社、というのが印象でした。創業者のベン・トロットCTO、ミナ・トロット氏を囲み、15名ほどのとてもマニアな、そしてアットフォームな雰囲気です。全員お菓子が好きだとか、昼にはランチに出かけるというよりもサンドイッチを買ってくるという感じですね。

 今回の渡米目的は、フランス企業との提携が予定されているのですが、その件についてのやり取り、そして偶然MTのローンチも重なっていたのです。

ITmedia MTのシステムはPerlベースですが、やはり米Six ApartのエンジニアはPerlプログラマが多いのでしょうか。

平田 米Six Apartの求人広告を見れば分かるのですが、とても幅広い技術レベルを要求しています。PerlのMLでも募集をしました。応募要項に書かれているのは、Perlの知識はもちろん、Apache/mod_perl、Linux、DB、XML、JavaScript、CMS、Webサービスなど幅広い技術を有したエンジニアです。先ごろは数百人の応募があり数名を採用したのですが、結果としてとても優れたエンジニアがMTに携わっています。そして、米国の傾向としては、日本よりも企業でほかの言語に関わっていながら、Perlにも携わっているという人が多いようです。

ITmedia 平田さん自身はどうなのでしょうか?

平田 私自身も、ここ半年から1年ほどで特にPerlに関わることが多くなったので、簡単なものを作ることは多いですね。そしてMT自体が、ベンが作り上げたフレームワークの上で成り立っているため、とても触りやすいです。

ITmedia 募集要項上位にLinuxとあるのは、特に理由があるのですか?

平田 弊社のTypePadがLinux上で動いているというのが大きなところですね。

ITmedia 平田さんの貢献はもちろんですが、MTには、ほかのツールと異なりユーザーコミュニティのドメインがありません。これほどまで人気を博した理由をどのように分析しますか。

平田 確かに情報が集約されているサイトはありません。しかし、Blogならではのトラックバックつながりで情報共有されているのが大きなところだと感じています。日本語パッチのMilanoさん、弊社で仲間になりましたがBlog Users MLのYamatoさんなど、有志サイトへのパイプ(リンク)つながりは、想像以上に太いはずです。元々Weblogが分散指向ということもあり、Blogの特性が新たなコミュニティの形を作り上げたといえます。

 しかしながら、プラグイン作成に関わるデベロッパーに対しは、国内デベロッパー向けの情報が少ないのが事実です。英語でも、まったくドキュメントがない個所もあります。この点は、今後シックス・アパートが率先して、というわけでもなく、各有志の方に協力をしていただくといった方向性でも充実させていきたいと考えています。

ITmedia MT-Blacklistを組み込んで現行バージョン2.661を使っていますが、スパムコメントにはとても困っています。3.0ではTypeKeyという認証によって排除するアプローチに出たわけですが、利便性が損なわれているのでは? という意見を聞きます。

平田 3.0では、必ずしもTypeKeyを使ってくださいとアナウンスをしていません。そして、コメント投稿にはオプションによって幾つかの選択肢を用意しています。

 TypeKey認証にはCookieを利用していますが、有効期限の間は特に意識することなく、そしてTypeKeyを使っているサイト間を渡り歩いてもCookieが維持されているため有効です。MTの利用者によって制限をコントロール可能なため、必ずしも利便性が損なわれているわけではないのです。また、個々のコメントやトラックバックを扱う手段も、カテゴライズを可能としています。

MT 3.0の管理画面を見せ、コメント投稿認可の選択肢を指す平田氏

 最近は、TypeKey関連でPHPと架け橋となるAPIを書いています。まだ公開していませんが、ほかのツールとの可能性を広げたいですね。

「現在、PHPとつながるAPIを作っています。もう少しで公開できるはずです」と平田氏

ITmedia 例えば、PHPベースのXOOPSともつながるのですね。

平田 ええ、可能ですね。

ITmedia TypePadのイメージとしては、USのアナウンスを見ていると、どちらかというと企業向けのBlogホスティングサービスだと感じていました。しかし、「TypePad Japan」のアナウンス、そして価格形態を見るとそうではないように思えます。ターゲットは明らかに個人ということでしょうか。

平田 国内では、ココログ(ニフティ)やブログ人(OCN)の案件によって、背後でTypePadの日本語化が先行していました。このため、米Six Apartとは違った見え方があります。

 Movable Typeを使いたいというユーザーには、「インストールが難しい」「サーバってなに」「CSSってなに」というコメントも多いのです。このような層に向けて「TypePad Japan」を開始したのです。Movable Typeの機能性を生かしつつ、無料サービスとの差別化についても、実際にUIなどを見てもらえば納得できるサービスです。もちろん企業内で利用しているユーザーの方もいます。

 無料サービスを評価するユーザーには2通りがあります。ひとつは、無料という響きが先行し喜ぶ層、もうひとつは無料サービスの背後にある課金を意識している層です。無料サービスに慣れている人には疑問があるかもしれませんが、「ココログ」や「ブログ人」でも、機能拡張には有料プランがあります。TypePadは本当に良いものを手に入れたいと望む人に見てほしいのですが、その見返りとしてシックス・アパートは良質なものを提供できると確信しています。

ITmedia 平田さんのping.bloggers.jpの勢いを拝見していると、日々急激なBlogユーザーの増加を感じます。このままpingが増えていっても大丈夫なのでしょうか(笑

平田 実は、ping.blogger.jpは自宅の8Mbps契約なADSLインフラです。ほかにもBlogサイトも同居していますが、上り1Mbps弱でも帯域を占有することなく、現在でも余裕があります。ping自体はそれほどのサイズではないため大丈夫ですね。それよりも、いくらサービスを拡大しても、個人サイトでは収益に結びつけるのが難しいという点が悩みですね。

ITmedia 平田さんはMac OS Xユーザーなのですか?

平田 そういうわけでもありません。WindowsもLinuxも使っていますよ。ここに持ってきたノートPCは、先ほどSafariのアップデートでちょっと調子が悪いようです。デモでMT 3.0のリビルドを見せますが、MTは背後のDBさえチューニングすればとても速く動作します。遅いおそいと言うユーザーは、比較的環境に恵まれていないホスティングサービスを使われているのかもしれません。私の環境では、modの組み込みや、MySQLを多少いじる程度でかなりのパフォーマンスが実現できています。

ITmedia DBチューニングは具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

平田 特に凝ったことはしていませんよ。MySQLのメモリ使用量を増やすだけでもかなり向上します。

ITmedia 先ごろ開催されたN+Iでの講演、そしてMoblogへの取り組みもされているように、サービス指向に注目されているようですが、Blogの今後をどのように見ていますか。

平田 N+Iの講演でも話しましたが、Blog自体は用途を選ばず、とても多岐に渡る可能性を秘めています。このため、必ずしもBlogツール自体に注目しているというわけではないですね。

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