Vine Linux 3.0の特徴 (その1)UNIX USER2004年10月号「Vine Linux 3.0のすべて」より転載(1/2 ページ)

2002年10月の2.6リリースから約2年ぶりにアップグレードし、Vine Linux 3.0がリリースされた。本記事では、Vine Linuxの特徴や、Vine Linux 3.0になって何がどう変わったのかを見ていく。また、Vine Linuxの歴史を簡単におさらいし、今後の方向性やメンテナンス方針についても紹介する。

» 2004年09月10日 22時00分 公開
[鈴木大輔(Project Vine),UNIX USER]
Vine Linuxとは

 Linuxディストリビューションを紹介する場合、開発のベースとなったディストリビューションの名前を取ってXX系*と呼ばれることがある。しかし、現在のVine Linuxは別のディストリビューションをベースにはしていない。発足当初はRed Hat Linuxをベースに開発を行っていたが、開発の方向性を乱す原因となるため、ある時期からほぼ独自に開発を行っている。あえて説明するのであればVine LinuxはRPM*とAPT*をパッケージ管理システムとして採用した、独自開発のディストリビューションといえる。

 開発の方針としては、コンパクトで日本用にカスタマイズされたLinuxディストリビューションという方向性を維持してきた。もちろん細かな部分は要望などに応じてどんどん変わってきたが、日本において使いやすいソフトウェアを厳選し、提供するという目標に変わりはない。また、収録するソフトウェアも、バージョンの新旧ではなく、機能・安定性・使いやすさのバランスを考えた選択を行っている。このため、ユーザーによってはお仕着せだとか、選択肢が少ない、古いなどと感じるかもしれない。

 また、ターゲットユーザーとしては、デスクトップ、ノートを利用する個人ユーザー、SOHOなどのスモールサーバー、大学などでのワークステーション用途などを対象としている。ほかの多くのディストリビューションと違い、エンタープライズ用途は対象としておらず、そのための機能などは実質的に開発対象外となっている。また、コンパクトでリリースサイクルが長いところから組み込みシステムで利用されている例もあるが、開発プロジェクトとしてのメインターゲットには至っていない。

 開発体制は後で詳述するが、多くのディストリビューションと違い、Vine Linuxは発足当時から企業ベースの開発は行っていない。Vine Linuxの開発に賛同をいただいた大学や個人からサーバーやネットワーク資源などの提供をいただき、有志によるボランティアベースの開発を行っている。また開発作業は、VineSeedと呼ぶ開発版のプロジェクトからドキュメントやセキュリティ対応のプロジェクトまで、いくつかのグループに分かれて進められている。これらの開発プロジェクト間や、全体の意思決定、内外の調整役(および雑用)としてProject Vineが存在し、WebやFTPサーバー、メーリングリストの管理や、リリースマネージメントなどの作業を行っている。また、「オフィシャル製品版」と呼ばれるパッケージ商品が、プロジェクトで認定した販売会社から発売されているが、開発プロジェクトには一切干渉しないという形態を取ってもらっている。

 なお、対応アーキテクチャは3つで、すでにリリースされているIA-32に加えてPowerPC、Alphaがリリース待ちの状態になっている。Vine Linux 2.1まではSPARC版があったが、2.5以降はリリースされておらず、残念ながら現在はメンテナンスも停止している状態である。また、IA-64*やAMD64*/EM64T*などのアーキテクチャは、機材や担当開発者の不在のため、残念ながら当面対応を予定していない。

Vine Linux 3.0は何が変わった?

 前バージョンであるVine Linux 2.6からは、バグフィックスバージョンを除くと1年10か月の間が開いている。その前のマイナーバージョンである2.5から見れば、実に2年半という期間がたった。当初の予定であれば3.0は昨年にはリリースされていたはずなのだが、いくつかのコンポーネントのリリース待ちや、ある程度の安定性の確保といった条件が重なり、リリースに持ち込むことができなかった。こういった状況のため、前バージョンからはコアコンポーネントを含めてかなり大きな変更が施されている。ここでは全体の構成と、2.6からのメジャーな変更点について紹介したい。

図1 図1 Vine Linux 3.0の歴史(クリックで拡大します)

コアシステムライブラリとコンパイラ

 システムの要となるライブラリとコンパイラは、長らくVine Linuxで使われてきたGlibc 2.2とGCC 2.95に代わって、現時点で最も安定して使いやすいと思われるGlibc 2.3.3とGCC 3.3.2を採用した。GCCについては、もっと新しいバージョンがすでにリリースされているが、互換性と安定性、さらに今後リリースされるPowerPCおよびAlphaの両アーキテクチャでの実績と安定性も考えて、現状の選択となっている。最新でないとはいえ、GCC 3の採用により新しいC++の速度や安定性を得られるようになったメリットは大きいだろう。

Xウィンドウシステム

 Xウィンドウシステムについては、Vine Linux 2.6で採用していたXFree86 4.2に代わり、X.OrgのX11R6.7.0を採用した。Xウィンドウシステムにおけるバージョンの選択は、Vine Linux 3.0のリリースが先延ばしになった原因の1つでもある。以前のリリース予定ではXFree86 4.3.xあるいはXFree86 4.4.0の採用を予定していたが、4.3.xの機能的な問題とバックポートの煩雑さが問題であった。さらには、XFree86 4.4でライセンスが変更されたため、開発のメインストリームがX.Org(Freedesktop.org)へ移行したこともある。X.Org X11R6.7.0は、Vine Linuxには新しすぎると感じられるかもしれない。しかし、X11R6.7.0は機能的に十分な状態で、すでにVineSeedで長期間にわたってテスト利用していたXFree86-4.3.99からのforkでもある。ある程度の安定性は確認できていたことも採用に至った理由の1つだ。これによって多くのビデオカードへの対応が果たせ、また最新の周辺ライブラリも提供できた。

デスクトップ環境

 これまでは、デスクトップ環境としてGNOMEとWindowMakerを採用してきたが、本バージョンからはGNOME 2一本に絞ることになった(図2)。これはGNOME 2の進化に伴う速度向上と、一般的なコンピュータリソースの向上が理由である。もちろん、デスクトップ環境として熟成したと判断できたことも重要な理由の1つだ。またGNOME 2の標準採用に伴って、アプリケーションのGNOME 2版への移行も行った。ポストスクリプトビューアや画像ビューアといった各種アプリケーションなどもGTK+2またはGNOME 2のものを標準とした。またGNOME 2採用に伴ってログインマネージャもwdm*からgdm*へ移行した(図3)。

図2 図2 GNOME 2デスクトップ(クリックで拡大します)
図3 図3 GNOMEログインマネージャ(クリックで拡大します)

TeXドキュメント作成環境

 Vine Linuxの強みといえる日本語におけるTeX環境は、本バージョンでも健在である。Vine Linux 2.6までのtetex-1.0.7に代わってtetex-2.0.2ベースとなり、pTeXも3.0.1から3.1.3へとバージョンアップした。


imedia注:次ページでも引き続き2.6からのメジャーな変更点について紹介する。

このページで出てきた専門用語
XX系
Red Hat LinuxをベースにしたRed Hat系、Debian GNU/LinuxをベースにしたDebian系など。

RPM
RPM Package Managerの略称で、Red Hat Linuxを始めとする多くのディストリビューションで利用されているパッケージ管理システム。ソフトウェアのインストールや更新、削除が簡単に行える。

APT
Advanced Packaging Toolの略称で、Debian GNU/Linuxで開発されたパッケージ管理ツール。ソフトウェアのインストールや更新、削除が簡単に行える。もともとはDebianのパッケージ管理システムであるdpkg用のツールだったが、ブラジルのConectiva社によりRPM用に移植された。

IA-64
インテルとヒューレット・パッカードが開発した64ビットマイクロプロセッサのアーキテクチャ。Itaniumシリーズのベースとなっている。

AMD64
AMDが開発した64ビットマイクロプロセッサのアーキテクチャ。x86命令(32ビット)を64ビット幅のアドレスに対応できるよう拡張した命令セットを持つ。

EM64T
Extension Memory 64 Technologyの略称で、インテルが開発した64ビットマイクロプロセッサのアーキテクチャ。AMD64とほぼ同等の機能を持つIA-32eモードを備える。

wdm
WindowMakerで利用されるディスプレイマネージャ。システム起動時にXを起動し、グラフィカルなログインプロンプトを表示するソフトウェア。

gdm
GNOMEで提供しているディスプレイマネージャ。ログインのほか、シャットダウンや再起動が行えるようになっている。

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