小売業が採用するべきRFIDのコード標準は?特集:RFIDが変革する小売の姿(1/2 ページ)

日本の小売業にとってRFIDへの取り組みは、競争力で世界に差別化を図る手段というよりは、欧米に差をつけられないために実証実験を急ぎ、一刻も早く追いつかなくてはならない状況だ。今回はRFIDシステムの導入におけるICタグのコード体系の標準化の動きについて紹介したい。

» 2004年09月20日 13時07分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 前回はマルエツの実証実験を通じてRFIDの技術的課題について触れた。しかし、課題はこれだけではない。今回は、RFIDシステムの導入におけるICタグのコード体系の標準化の動きについて紹介したい。

 日本の小売業にとってRFIDへの取り組みは、競争力で世界に差別化を図る手段というよりは、欧米に差をつけられないために実証実験を急ぎ、一刻も早く追いつかなくてはならない状況だ。世界中の小売業者がRFID導入に向けて実証実験を重ねている限り、長い目で見れば日本の小売業者も取り組まざるを得ないのが実情と言える。

慶應大学の村井氏が支援するEPC

 RFIDシステムのコード体系では、世界の多くの小売業者がEPC(Electric Product Code)の採用に向けて動いている。日本でも、流通システム開発センター内に設置されたEPC Global Japanと、慶應義塾大学の村井純教授が所長を務めるAuto-IDラボ・ジャパン(旧Auto-ID Center)が共同でEPCの普及を推進する。EPC Global JapanはEPCの普及活動を、Auto-IDラボ・ジャパンは技術的な面からEPCのシステム開発を推進する形になる。

 なお、流通システム開発センターは、流通のシステム化を推進する専門機関として官民の協力を得て1972年に設立された財団法人。国際的に流通標準化を推進する「国際EAN協会」 の日本における代表機関だ。

「EPCテクノロジーの未来をめざして」をテーマに講演した村井氏。(7月26日のEPC RFID Forum開催時の様子)

 従来、EPC Globalは日本での標準化活動にやや遅れている印象もあった。しかし、7月26日にEPC Global JapanとAuto-ID Lab.、電子商取引推進協議会(ECOM)が共同で「EPC RFID Forum」を設置するなど、EPC Globalの標準化に賛同する企業や組織を募る動きが進展し始めた。

EPCはサプライチェーンでの利用が前提

 実証実験の多くは現在、複数の製品をひとまとめにしたパレット単位で行われている。だが、将来は1つの製品に1つのICタグを貼る「単品管理」が実現するといわれる。製品情報などを小売業者やサプライヤーがインターネットを介して共有し、協働して在庫の圧縮や、業務プロセスの自動化を図ることが主な目的といえよう。

 実現すれば、メーカーから最終の小売業者まで、いつ、どこで、どの製品が生産されるのか、また今後の予定までも、多くの関係者がシームレスに情報を共有する体制が出来上がる。そこでは例えば、同じ製品をより安く、安定的に供給するサプライヤーが市場の信頼を得ていくだろう。一方で言えることは、これが実現すると、複雑といわれる日本の流通構造で、問屋機能などさまざまな役割を担っている卸売業者が存在を脅かされる可能性があるということだ。

 EPC Globalは、EPCを使ったシステムをEPCシステムと呼んでいる。2005年1月から行われるWal-Martによる実証実験から、ネットワーク上に主要サプライヤーを巻き込んだEPCシステムの実証実験が本格的に実施される予定だ。

 EPCシステムは、RFIDとネットワーク技術を組み合わせた技術と言える。ICタグに書き込まれた企業番号、商品番号、シリアルナンバーをキーとして、インターネット経由で関連するデータベースにアクセスし、その商品の属性情報を取得する仕組みだ。コードの定義に既に企業番号や商品番号の記述が要件として含まれており、EPCがビジネスにおけるモノの流れの最適化、つまり、サプライチェーンでの利用を念頭に置いていることが分かる。

 EPC Globalジャパンは、加入対象を「商品流通に携わる者。例えば、製造業者、小売業者、卸売業者、運送業者、政府機関など」と定めている。技術的な側面からEPCを支援するAuto-IDラボ・ジャパンの村井所長もEPC RFID Forumで、「EPCグローバルのターゲットはグローバルに産業界と連携すること」と話し、EPCを主にサプライチェーンで利用する方向性を示した。

EPCが商品を認識する仕組み

 ここで、EPCシステムが小売のレジなどで、各商品を認識するまでのプロセスをイメージしてみる。まず、EPCシステムの仕組みを理解するために、左に「小売業者」、真ん中に「ONSサービス」、右に「メーカー」という3者がいることを想定してもらいたい。(図1参照)

 左の小売業者には、ICタグのリーダを制御するSavantと呼ばれるミドルウェアとONS(Object Name Service)サーバがある。真ん中はONSサーバ間の情報のやり取りを仲介するONS Registry。右のメーカー側には、ONSサーバと、商品データが格納されているPMLサーバの2つが存在する。

 なお、PMLは「Physical Markup Language」の略。EPCシステムで識別される製品情報を記述するXMLベースの記述言語。

 まず、ある小売店で消費者がICタグのついたお菓子を購入したとする。すると、まず小売業者のSavantがお菓子についていたICタグからEPCを読み取ってONSサーバに情報を送る。続いて、そのONSサーバは真ん中のONSサービスに対して、「そのEPCの情報を持っているのはどのメーカーのONSサーバなのか」を問い合わせる。仲介するONSサービスは、このリクエストに対応して、該当するメーカーのONSサーバの情報を通知する。

 小売業者のONSサーバは、ONSサービスから通知された情報から、メーカー側のONSサーバにアクセスし、「このEPCにヒモづく製品情報を教えてほしい」と要求。メーカーのONSサーバはこれに対して、詳細な製品情報を記述した「PMLアドレス」を小売業者側に返す。小売業者は、受け取ったPMLアドレスを持ってメーカー側のPMLサーバに商品情報の問い合わせを行う。これでついに、小売業者はこのお菓子の商品情報を取得することができるわけだ。

図1。EPCシステムにおける商品の識別方法(流通システム開発センターのWebサイトから)

日本発の世界標準を目指すユビキタスIDセンター

 日本には、RFIDのコード体系の標準化を目指す団体がEPCグローバルのほかにもう1つある。東京大学の坂村健教授が展開するユビキタスIDセンターだ。

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