Sun、OpenSolarisコミュニティーの基盤を構築

DTraceを皮切りにオープンソース版Solarisを提供しようとするサンは、「OpenSolarisパイロット」プロジェクトを通じてコミュニティーとの関係も構築しつつある。独自方式の下で閉ざされてきたドアが開かれようとしている

» 2005年01月25日 18時39分 公開
[IDG Japan]
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 デニス・クラーク氏はかつて車のコレクターだったが、オープンソース版Solarisのためにこの趣味をきっぱりと捨てた。クラーク氏は1年前、同氏のコレクションに残っていた最後の車(赤色の1989年型コルベット)を1万3000ドルで売り払った。自身が運営するWebサイト「Blastwave.org」の回線使用料を支払うためである。同サイトでは、Sun MicrosystemsのSolaris OS用のオープンソースアプリケーションを提供している。

 クラーク氏をはじめとするSolarisの熱烈な支持者で構成される小さなグループは1月25日、晴れの舞台で脚光を浴びることになる。Sunがついに、「OpenSolaris」の最初のコンポーネントとなるパフォーマンス分析ソフトウェア「DTrace」をリリースするのだ。OpenSolarisは、SunのUNIX OSであるSolarisのオープンソース版である。今回の発表の一環としてSunは、Solaris開発者向けの新しいコミュニティーポータル「Opensolaris.org」のお披露目も行う。このポータルは、新たに登場しつつあるオープンソースSolarisコミュニティーの拠点になるとされている。

 「OpenSolarisは、遅ればせながらLinuxの成功をまねようとする試みだ」と批判的な見方をする人もいるが、カリフォルニア州メンロパークにあるインターネット関連企業のシステム管理者、ベン・ロックウッド氏のようなSolaris信奉者は、「Sunは実際、オープンソースコミュニティーを拡大しようとしているのだ。このコミュニティーは既に大きな規模になっているが、あまり認知されていない」と主張する。

 ロックウッド氏によると、オープンソースソフトウェアの中で特に人気の高い製品の多くは、Solaris向けに書かれているか、早い段階で同OSに移植されたという。さらに同氏は、「インターネットそれ自体のルーツがSunとオープンソースにある。GNOMEであれKDE Apacheであれ、オープンソースに関連したものはすべてLinuxと呼ばれるようになってしまった」と有名なオープンソースプロジェクトに言及した。

 ロックウッド氏の指摘には一理ある。同氏が開発に携わったグラフィカルユーザーインタフェース「Enlightenment」も、Linuxと関連付けて語られることが多い。同氏によると、「OpenSolarisではSunはゼロからスタートしなければならない」と批判する人々は、同氏のようにオープンソースの世界に積極的に参加しているSolarisユーザーが既に多数存在するという事実を見落としているという。

 「だれもが“Sunはどうやってコミュニティーを構築するつもりなのだ”と考えているが、コミュニティーは既に存在する」と同氏。

 Sunは2004年9月以来、静かにこのコミュニティーを育ててきた。クラーク氏やロックウッド氏のような熱心なSolaris信奉者で構成される、小さいながらも影響力のあるグループを「OpenSolarisパイロット」プロジェクトに引き入れたのである。同プロジェクトの目的は、Solarisのソースコードを開発者にいち早く公開し、ユーザーをSolaris開発に直接参加させる方法に関してコミュニティーから貴重なフィードバックを得ることにある。

 パイロットプログラムのメンバーは、Solarisのソースコードだけでなく、コンピュータ上で動作可能なバイナリの機械可読ファイルに同ソースコードをコンパイルする方法を知っているSunの技術者にもアクセスできる。こういった方式が採用されたのは初めてで、Sunはこの方式によりOpenSolarisの広範な普及を狙っている。

 Sunはパイロットプログラムのメンバーと共同作業を行うことにより、Solarisコードのコンパイルプロセスを一般の開発者にとって簡単なものにする方法に関するフィードバックを得ただけでなく、ユーザーが独自バージョンのOpenSolarisを構築・開発するのを支援できるまでになった専門家集団を育てた。

 「要するにSunは、Solarisの内部構造を理解する開発者コミュニティーの種をまいたのだ」とロックウッド氏は話す。

 これまでにSunのパイロットプログラムには75人近くが参加登録した。1月25日のOpenSolaris.orgの発表会で同コミュニティーが一般に開かれることになるが、Sunでは今後も引き続き、Solarisのソースコードがすべてリリースされるまでパイロットプログラムのメンバーを募集する考えだ。Sunのスコット・マクニーリーCEOによると、今四半期中にすべてのソースコードがリリースされる見通しだ。

 OpenSolarisパイロットプログラムの参加者は、プロジェクトの管理モデルについても意見を述べることができる。Java Community Process(JCP)と同様、この管理モデルは、提供されたソフトウェアの評価方法、ならびにそれをOpenSolarisのコードベースに組み入れる方法について厳密に規定する。パイロットプログラムのメンバーらによると、Sunは25日の発表以後に管理モデルに関する公開討論を始める予定だという。

 一方、コミュニティー開発方式の最初の成果らしきものもOpenSolarisの周囲に現れようとしている。欧州の小さなコンピュータメーカーであるGenesiは、SolarisをIBMのPowerPCプロセッサに移植するプロジェクトのスポンサーになった。また25日には、クラーク氏が新しいWebサイト「Blastware.org」を立ち上げる。同氏は、ほかのオープンソース開発者(Gentoo Linuxディストリビューションの開発者も含む)と共同でOpenSolarisディストリビューションを開発したいと考えており、同サイトがいずれその配布拠点になるという。

 アプリケーションサイトのBlastwave.orgよりも壮大な構想に基づくBlastwareは、Blastwaveのアプリケーションに加え、コアOSコンポーネントやGentooのソフトウェアアップデートシステム「Portage」なども含めた標準的OpenSolarisディストリビューションの拠点を目指す。

 Gentoo開発者のピーター・バンデンアビール氏によると、Gentooプロジェクトでは、SunがOpenSolarisで採用するオープンソースソフトウェアライセンスを明らかにするまでコミットを見合わせる方針だが、同氏を含む一部のGentooプロジェクトメンバーは、OpenSolarisパイロットプログラムに既に参加しているという。

 「SunがOSI(Open Source initiative)に準拠したライセンスの採用を明確にしたらすぐに、OpenSolarisをサポートしようと考えている。Gentoo/OpenSolarisには市場が存在するとわれわれはみている」とバンデンアビール氏は電子メールの中で述べている。

 Sunの計画に詳しい情報筋によると、同社は25日、「CDDL(Common Development and Distribution License)」と呼ばれるOSI準拠ライセンスの下でDTraceをリリースすることを明らかにする(関連記事参照)。CDDLは「FireFox」ブラウザで採用されているライセンスに近く、Sunがこれを作成し、OpenSolarisプロジェクトに参加している技術者が先月、OSIに提出した(関連記事参照)

 25日のリリースは、パイロットプログラムの参加者にとってエキサイティングなイベントになりそうだが、Sunが今回、Solarisのソースコードの一部しかリリースしないことに対して、OpenSolarisの前宣伝が過剰気味ではないかと心配するプロジェクト関係者の間からは不安の声も聞かれる。

 しかしSunが同OSのコンポーネントの1つしかリリースしないにせよ、OpenSolarisの信奉者らによると、Sunは現在、オープンソースUNIXのサポートに全面的にコミットしており、懐疑的な人々の論調もいずれ変化するだろうという。

 「人々は25日の発表に大きな期待を抱いている。ここで人々に理解してもらいたいのは、非常に長い間、独自方式の下で閉ざされてきたドアが開かれようとしていること、そしてこのドアは時間をかけて徐々に開かれていくということだ」とBlastwaveのクラーク氏は話す。

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