第2回 オフショアアウトソーシング先進国 米国の事情寄稿

インドのTATA Consulancy Servicesにオフショア開発の市場動向について寄稿してもらう。第2回は米国のオフショア開発の現状について、サービスを提供する側としての意見が寄せられた。

» 2005年03月14日 17時12分 公開
[TATA Consultancy Services]

 技術者の労働コストが低い国でシステム開発を行うオフショア開発が、情報システムを構築する手法として無視できない存在になっている。コスト効果に注目が集まる一方で、米国のIT技術者の労働機会の喪失、委託元と委託先の間での情報共有、伝達が難しいことなど、課題も見つかっている。オフショアベンダーの立場から、インドのTATA Consulancy Services(TCS)に、オフショアベンダーへの開発業務のアウトソーシングについて、米国の事情を中心に寄稿してもらう。


オフショア開発の源流

 現在、オフショア開発委託が最も先行しているのは米国である。そして、委託先としては、インドが最大だ。HP、IBM、General Electoric、Microsoft、Oracle、Citigroupなど米国のグローバル企業の多くが、こぞってインドにオフショア開発拠点を設置している。

 Tata Consultancy Services(TCS)の主要顧客の中にも、フォーチュン10にランクインする米国企業6社が含まれている。また最近はBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の拠点としても注目を集め、Accenture、AMEX、AOLなどが業務拡大に動いている。

 オフショア開発委託が盛んになった背景として、1970年代から形成されてきた米国とインド、あるいは中国との間のIT面での人的ネットワークの存在が挙げられる。米国における1965年の移民法成立を契機に、規制緩和で70年代以降に増え続けたインド人および中国人(初期は台湾人)留学生や移民が、IT産業集積地、シリコンバレーを支える高度IT人材となった。

 そして、90年代にはインドや中国などでのオフショア開発拠点の構築を本格化させ、米国企業と本国のITベンダーとの橋渡し役を担ったのである。米国で一時的に就労する高度技術専門家に発給されるH-1Bビザの国籍別分布をみると、インド人が非常に多いことが分かる(グラフ参照)。

オフショア開発委託のメリット

 米国企業にとってオフショア開発の最大の魅力は、何といってもインドの豊富で、優秀な、しかも英語に堪能なIT人材の活用にある。インドは毎年29万人規模の工学系学卒者が輩出するほどの人材大国である。最高学府のインド工科大学(IIT)は受験倍率が50倍を超え、2000年度のアジアベスト大学(科学技術系部門)トップ3位にランクインしている知名度の高い大学である(日本の大学では東工大が6位)。

 GEはインドへの開発委託のパイオニアで、TCSの最大の顧客でもあるが、エンジニアリングから金融まで様々な業務を委託することで年間合計約3億ドルの経費削減を実現している。

 オフショア開発は単にコスト節約だけでなく、高品質なITサービスの提供、迅速な製品開発と市場投入を可能にしてくれる。また最近では高度な技術開発を目的にインドの開発拠点を活用する動きも見られる。Microsoftは世界市場向け先端技術開発を、イスラエルと共にインドの開発拠点でおこなっている。TexasInstrumentsはインドをシリコンデザインの重要な開発拠点と位置づける。また、JPモルガンの場合、投資銀行業務や調査機能などの中核機能もインドへ委託している。

開発委託を成功させる方法

 米国企業の多くは、オフショア委託に伴うリスクをうまく管理し、高収益復活を果たした。成功のポイントを整理すると、さまざまな評価をもとにベンダー選定を慎重におこなうこと、要求定義の明確化と意思疎通の徹底、プロジェクト発足後の監視・管理の強化、定期的な評価作業とフィードバックなどが挙げられる。

 また業務委託に伴う守秘義務、安全管理、知的所有権の重要性をインド・ベンダー側に徹底して教え込んだことも成功要因として挙げられる。さらに、品質管理にも厳しいスタンスで臨み、ベンダーにCMM(Capability Maturity Model)標準での高品質水準の達成を要求した。明確な経営戦略、意思疎通、リスク管理、IT統治力が委託開発成功の要諦とも言える。

 なお、CMMは、米国カーネギーメロン大学のソフトウェア工学研究所が開発したソフトウェア開発組織の能力成熟度モデルのこと。ソフトウェア開発プロセスの能力を客観的に判断できる指標として活用されています。

 ところで、米国では、オフショア開発委託がホワイトカラーや高度なスキルを持つIT技術者の職を奪うとの危機感が高まっている。海外へのIT雇用流出が政治問題化する中で、オフショア委託のペースが減速していることは確かだが、米国企業の大方のCIOは再び活発化すると予想していると言われる。グローバル競争の激化、資本の論理、最適人材の活用の観点から、オフショア委託は不可逆的な時代の流れと言えるかもしれない。

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