ウィスコンシン州ケノーシャはLinuxの灯台

かつて開拓者たちはオークの切り株を利用して簡易な灯台を作り、自らを灯台守と呼んで、その篝火を交代で守ったものだ。そして現代。市役所のIT部門で働く2人もまた灯台守となった。ただし、Linuxの灯台守だ。

» 2005年08月04日 13時32分 公開
[japan.linux.com]
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 1836年、ウィスコンシン州ケノーシャの町がまだミシガン湖畔の原野に築かれた1つの入植地にすぎなかったころ、道路と言えば人の踏み跡程度のものでしかなかった。そのため、霧のときあるいは闇夜に原野を行く人々の目印となるように、開拓者たちはオークの切り株を利用して簡易な灯台を作り、自らを灯台守と呼んで、その篝火を交代で守ったのだった。そして現代。市役所のIT部門で働くラス・シャル(Ruth Schall)氏とティグ・カークマン(Tig Kerkman)氏もまた灯台守となった。ただし、Linuxの灯台守だ。

 10年ほど前のことである。当時、Linuxはまだ誕生したばかりのオペレーティング・システムだったが、シャル氏とカークマン氏はLinuxの将来性を見て取り、Linuxの地に市役所の技術基盤を築こうと開拓に乗り出した。そして、彼らに続く者たちのために灯台を守ったのだった。

 しかし、当時、彼らの後に続こうとした者はわずかしかいなかった。彼らを変わり者扱いした人もいたと、市役所でMISを担当するシャル氏は言う。業務を効率化する最新アプリケーションを売り込もうと電話をかけてきたベンダーも、Red Hat Linuxを使っていると告げると「お邪魔しました」と言って電話を切ったものだ。

 Linuxに移行する前、市役所ではSCO Unixばかりが使われていた。そのころ、Unixサーバの維持管理経費は上昇を続け、多くの技術がインターネットに向かい始めていた。潮時と見たシャル氏はRed Hatを試してみることにした。「あまり重要でないアプリケーションをLinuxに移行してみることにしました。DNSサーバとかメール・サーバですね。小さなマシンを調達して、どの程度のものか使ってみたのです。すぐに、Linuxは安全性がかなり高く、安定性にも優れていることがわかりました。そこで、他のものも移行することにしたのです」

 2002年には、市役所の全部門でLinuxを使うまでになった。Red Hatがインストールされたサーバが25台、シン・クライアントが300台。Linuxでないサーバは1台だけだ。報告書を提出するために使用しなければならない州政府のプロプライエタリ・プログラムが動作しているWindowsマシンである。

 シャル氏は、これまでずっとRed Hatを選んできたと言う。単に「サイコロを投げて」始まったのだが、相談相手が本当に欲しくて「Linuxの専門業者がいればと思った」のである。とは言っても、ベンダーのサポート・パッケージをそう頻繁に利用しているわけではない。「沢山の人が助けてくれますからね。Linuxのサイトに質問を投げるだけで、多くの人が回答を寄せてくれます。驚くべきことですが、オープンソース・コミュニティーから十分なサポートが得られるのです」

 移行から長い年月が経ち、今ではシャル氏が取り組むべき課題はほとんどない。「移行はとても楽でした。Unixを使っていましたからね。エンドユーザーは大いに支持してくれました。インタフェースがテキストベースからGUIに変わりましたから」。最大の問題は、いつでも「非Microsoftを採用している」ことを新入職員に納得してもらうことだった。「外部から来た人は、それまで使っていたソフトウェア・パッケージを欲しがります」。しかし、Linuxでは使えないため、諦めるほかはない。

 また、長い間WordPerfectを使っていたエンドユーザーはOpenOffice.orgに切り替えるのを渋ったという。オフィス・ソフトウェアの切り替えは2003年に始まったが、それはコストに問題がありバージョンが古くなりすぎたからだ。

 シャル氏によれば、インフラストラクチャをLinuxとシン・クライアントに切り替えたことでコストを大きく削減できたことは市役所も認めているという。初期の段階で、少なくとも年間10万ドルの削減になったとシャル氏は推定する。現在ではその数字はもっと大きくなっており、大部分はスタッフの仕事が減ったことによるものだ。「沢山のデスクトップ、ネットワークの管理、ヘルプデスク、新しいハードウェアの導入――これらを担当するスタッフは1人と半分です。Windowsマシンだったら、この人数では不可能でしょうね。IT部門のスタッフを、少なくとも2倍にする必要があるでしょう」

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