次世代のITオフィス環境――いつ、どこからでも、多様なコミュニケーションを次世代のITオフィス環境を考える

次世代のITオフィス環境とはどのようなものだろうか。ITをどのように適用していけば、働きやすいオフィス環境が得られるのだろうか。ここでは、さまざまなITの技術と、その恩恵による業務の効率化や最適化を考えていこう。

» 2005年10月03日 07時00分 公開
[下村恭(ハンズシステム),ITmedia]

 理想のオフィス環境を求めて進められてきたオフィスのIT化は、果たして目的どおり理想のオフィス環境を構築できたのか。オフィスを取り巻く環境は、ここ10年で驚くほど変化した。今や1人に1台のパソコン、携帯電話も各個人が持っていて当たり前となっている。パソコンが安価に入手できるようになり、インターネットへの接続がブロードバンドへと移行するにつれ、オフィス環境はますますIT化の度合いを強めてきている。次世代のITオフィス環境は、さらにこうした技術を取り込んで進化していくことは間違いない。

 オフィスのIT化を推進してきた原動力は、やはり、仕事の効率化、省力化だったのではないだろうか。文書は電子化され、ファイルサーバで共有され、メールで送受信されるようになった。確かに、電子化された文書のおかげで、すでに作成済み文書のコピーや清書といった非生産的作業から開放された。連絡手段もポケベルからやがて携帯電話となり、携帯メールを含めいつでも連絡が取れるようになった。おかげで、ビジネスのロスタイムを発生させずに済むようになった。

 だが、IT化が進むにつれて、仕事のしやすさも比例して改善されただろうか。ITの秘めるパワーはこの程度のものだったのか。ITとは理想のオフィスを実現する魔法の技術ではなかったのか。

 例えば携帯電話を考えてみよう。携帯電話を持っているだけで、時間を選ばず割り込みが入るようになっていないだろうか。重要な会議中、電車で移動中、帰宅後でさえ電話がかかってくる。また、在席中なら内線電話で済むところを、在席しているかどうか分からないという理由で、携帯電話に連絡が来る。こういったことはないだろうか。

 電子メールはどうだろう。至急確認してほしい文書をメールで送信し、直後に電話で受け取りを確認したりしていないだろうか。簡単にCCをつけられるという理由だけで(必要かどうか分からないから、とりあえずCCにつけておこうと)、読まなくてもいいメールが送られてきたりしていないだろうか。

 ファイルの共有は本当に作業効率を高めたか。社内あるいは部署内のルールが徹底されず、同一の内容で、いくつものバージョンのファイルが、あちこちの共有フォルダに分散して保存され、どれが最新のファイルか分からなくなっていないだろうか。また、必要なファイルがどこに保管されているか分からないため、探し出すための無駄な時間を費やしたりしていないだろうか。

 このような状態で、本当に効率化、省力化した理想のIT環境と言えるだろうか。

理想のITオフィス環境とは

 理想のITオフィス環境といっても、唯一の答えがあるわけではない。企業それぞれの規模や業種、業務形態によって、それぞれの理想は異なるだろう。たとえ1つの企業内であっても、総務部と営業部のオフィス環境が同じでよいとは限らない。例えば、在宅オフィスを理想のオフィスと考える場合や、デスクを固定しないフリーアドレスを理想と考える場合もあるだろう。

 そうは言っても、それぞれの理想に共通点はある。どんな業種であれ、どんな規模であれ、複数の人間が協調して業務をこなすのが仕事である(1人だけで仕事ができるのであれば企業である必要はない)。そこで、共通項として挙げられる第一の点がコミュニケーションだ。

 理想のコミュニケーションとはどのようなものだろうか。社員全員が、いつでも、どこにいても、それぞれの仕事を邪魔しない最適な連絡手段が用意されていること。一対一だけでなく、一対多や多対多のコミュニケーションもスムーズに行えること。離れていてもさまざまな手段で十分な意思疎通が可能であること。そして、もちろんコストが最小限に抑えられることは言うまでもない。

 言い換えれば、距離や時間に非依存で、かつ、協調作業が可能な通信手段というところだろう。現在のITで、一見矛盾しているように見えるこの条件を満たすことが可能なのだろうか。

 例えば、各IM(instant messaging)などのメッセージングソフトウェアを利用することで、在席情報の確認は可能だ。これらをうまく利用できれば、電話をかける前に相手の状態を知ることができるようになる。また、電話の通話料金という面でも、IP電話の普及でかなりコストを下げることが可能になっている。

 理想のITオフィス環境に必要な点の第二はコラボレーションだろう。パソコン上でのアプリケーションを共有した共同作業もいまや可能だが、あまり一般的なやり方ではないだろう。むしろ、メールやサーバ経由でファイルを共有する方が一般的ではなかろうか。つまり、ファイル共有の問題点を解決できれば、理想に近づくことになる。

 ファイル共有の問題点であるバージョン管理や管理ポリシーの徹底に関して言えば、グループウェアなどの社内ツールを利用することで、解決が見込める。

 第三に、いつでもどこでも仕事ができる環境が整うことが、理想のITオフィス環境を構築するポイントではないだろうか。現段階でも、ノートパソコン、無線LAN、VPNなどを利用することで移動オフィスを構築することができる。モバイルセントレックスを利用することで、携帯電話をオフィスの内線電話にすることも可能だ。

オフィス環境を改善するこれから注目のIT

 こうしてみると、現時点でもIT化を進めていけば、コミュニケーション、コラボレーション、モバイルという面で、オフィス環境を理想に近づけることができそうだ。IP電話やモバイルセントレックスなどはその筆頭だろう。だが、忘れてならないのが、個々の技術や製品をただ投入しただけではうまくいかない、という点だ。

 まず問題となるのが、最適な技術や製品の選択だ。さまざまな製品が用意され、さまざまな技術が使われているため、業種や職種に応じた最適なものを探すには、それなりの知識や経験が必要と思ってよい。

 また、必要な機能を満たす製品が見つかっても、複数の製品を組み合わせる必要が出てくる。例えば、IP電話利用のためのハードウェアであったり、コラボレーションのためのグループウェアといったソフトウェアであったりする。これらを最適な組み合わせとして容易しなければならない。

 もちろん、最適なオフィス環境を構築するためには、電話やパソコンなど、さまざまなハードウェアが必要だ。そして、電話やパソコンなどを有機的に結びつけ、使い勝手の良いものにするには、ソフトウェアが欠かせないものとなる。市販のパッケージソフトで事足りる場合もあるが、カスタマイズが重要になる場合もある。

 ここで覚えておきたい点は、さまざまなハードウェアの持つ機能を、ソフトウェアで結びつけて使うという点だ。言い換えれば、さまざまなハードウェアを結びつける接着剤の役割をソフトウェアが果たしていて、さらにインターネットというインフラが距離という概念をなくしてくれているというわけだ。

 実際の導入となると、既存の資産の継承であったり、最適な機種の選定であったり、複雑な面が多い。経験豊富なシステムインテグレーターなどの力を借りることで、最適なシステム構築が行えるだろう。

 本特集は、こうしたさまざまな観点から技術やソリューションを取り上げ、どのようにすれば理想のITオフィス環境に近づいていくことができるかを考察していきたいと考える。

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