ITが支えるアニメーターの創造力――米Pixarの高速ファイルアクセスインフラ

「Storage Networking World Spring 2006」で米Pixarのテクノロジー担当副社長ブランド氏が基調講演を行った。アニメーターの創造力を十分に生かすため、同社は超ローカルディスクアクセスを可能にする高速なファイルアクセスインフラを構築しているという。

» 2006年04月05日 17時03分 公開
[堀哲也,ITmedia]

 「ローカルのディスクよりもネットワーク経由での方が高速なアクセスを実現している」――コンピュータアニメーション映画スタジオ、米Pixarのテクノロジー担当副社長グレッグ・ブランド氏は米国時間4月4日、米サンディエゴで開催中の「Storage Networking World Spring 2006」で開幕の基調講演を行った。

グレッグ・ブランド氏 米Pixarのテクノロジー担当副社長グレッグ・ブランド氏

 フルCGによる長編アニメ映画「トイ・ストーリー」を送り出し、「ファインディング・ニモ」でアカデミー賞(長編アニメ賞)を受賞している映画スタジオの製作環境を紹介した。同社のスタジオは箱物のスタジオでなく、コンピューティングファームそのもの。ITがアニメーターの創造力を支える。この6月に全米公開予定の最新作「カーズ(Cars)」では、「トイ・ストーリー」の製作時と比べて300倍ものコンピューティングパワーを利用して作られているという。それだけフルCGでも複雑な映画表現が可能になってきているためだ。

 「コンピュータで洋服やプラスティックといった質感の違い、自動車のボディーへの映り込みを表現、ライティング処理でその場のエモーションを演出する。これらさまざまな要素とパーツを重ね合わせながら、1つのショットを作り上げている」

 映画の製作過程では今でもストリーボードが活用されているが、フルCGアニメという特徴を持つ同社の作品は、キャラクターのモデリングや背景、レイアウト、シミュレーション、ライティングといった作業はすべてコンピュータ上で行われる。また、その「レンダリング処理には2000CPUという大きなコンピューティングパワーを活用している」とブランド氏。

3つのコンピューティングファームでできているスタジオ

 この製作インフラは、主に3つのコンピューティングファームで構成されている。アニメーターなど映画のパーツ作製する「モデルファーム」、レンダリングに利用する「レンダーファーム」、そしてフィルムに落とし込まれる前の映画が保存される「イメージファーム」の3つ。それぞれに求められてくるシステム要件は異なっている。

 例えば、モデルファームでは、アニメーターが高速なファイルアクセス、レンダリングには強力なコンピューティングパワーを利用できるようにキャッシュやネットワークパフォーマンスなど、あらゆる点での拡張性が求められる。また、イメージファームではむしろコンピューティングパワーというよりも資産となるデータが失われないことが重要だという。

 「インフラのシェアはしていない。どれかのファームに問題が起こっても、ほかのファームへ影響させないためだ」

モデリング作業 紙に描かれたキャラクターはコンピュータでモデリングされ、命を吹き込まれていく

 ブランド氏は、特にモデルファームを中心に説明。SANで接続されたストレージに対し、NASヘッドを通じてアクセス。キャッシュを生かすことで高速なアクセスを可能にした。そのキャッシュの容量は段階的に増設しており、昨年7月には32Gバイトになっているという。

 「実際のところ、アニメーターはローカルディスクよりもネットワーク経由のアクセスの方が高速に行えている」

 また、レンダーファームには64ビットCPUを採用し、ストレージとは各ノードが32Gバイトのキャッシュサーバを通してSAN経由で行っているという。ブランド氏は「レンダリングにはもっとコンピューティングパワーが欲しいと思っている」と話し、キャッシュのヒットレートやディスクI/OやネットワークI/Oなどによるパフォーマンスとの関係を説明した。

 最後に会場からの質問に応じた同氏は「みんながPixarのこと知っていてくれるが、とはいってもは小さな会社。できるだけインフラは安価に構築したいと考えてる。それもできるだけシンプルな方がいい」と話した。

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