問われるGPMOの調整機能崖っぷち!電子政府〜迷走する4500億円プロジェクトの行方・第3回(1/2 ページ)

内閣官房に新設された「電子政府推進管理室」(GPMO:ガバメント・プログラム・マネジメント・オフィス)は、迷走する電子政府プロジェクトの調整機能を果たすことができるのか――。

» 2006年08月15日 08時00分 公開
[山崎康志+編集部,ITmedia]

 前回、EA導入の功罪について述べてきたが、あらためてEAの機能に立ち戻ってみよう。

 EAは組織の情報システムを、政策・業務体系(BA)、データ体系(DA)、適用処理体系(AA)、技術体系(TA)の4階層に分け、とりわけ、BAおよびDAの段階で、業務関連図やワークフロー図を用いつつ要件定義を行う。この過程で現状モデルから理想モデルへ移行方針が明確になり、次期システムの方式設計、すなわちOSやミドルウェア、インターフェイスが選択されていく。

 これを工程表にすると、アーキテクチャを決める方式設計は、一連の開発プロセスのほぼ中間に位置する。慣習的にこれ以前を「上流工程」、これ以降を「下流工程」と呼ぶが、電子政府では一気通貫のレガシーシステムを排除するため、上下の工程を分離発注している。

 最適化計画は上流工程に当たるが、下流工程のプログラム実装やハードウェア販売で儲けたいベンダーは最適化計画を軽視しがち。事実、財政当局は上流工程に多くの予算を割かないため、それを安値受注したコンサルティング会社や監査法人も最適化計画を熱心につくらない。その結果、肝心の方式設計が曖昧になる悪循環が続くのだ。

 実際、多くの最適化計画には「○億円の経費削減」「○万時間の業務削減」といった根拠不明の導入効果が躍っており、それを実現する具体的な仕様はほとんど書かれていない。今後、一斉に開発作業に入れば、新たな要件定義による手戻りは不可避。混乱は目に見えているのだ。

PDCAサイクルの確立?

 昨年12月、東京・永田町の議員会館には、一部の行政官やCIO補佐官、コンサルティング会社の幹部などが頻繁に出入りしていた。

「このままでは、電子政府は頓挫します」

 総務省行政管理局の機能不全に危機感を抱き、内閣府の平井たくや大臣政務官(IT担当)をはじめ関係議員へ、電子政府の推進体制見直しを訴えていたのである。その提言は紆余曲折の末、年明け1月の「IT新改革戦略」に設置が明記されたGPMOに結実した。

 4月、内閣官房に設けられたGPMOは、23件の府省共通システムについて工程管理や仕様調整、開発費の効率運用など総合調整を担う司令塔である。財務省への予算要求もGPMOが判断する。この結果、電子政府の主導権は、総務省行政管理局から内閣官房へ実質的に移ったと言っていい。

 GPMOは、坂篤夫内閣官房副長官補をトップに、CIO補佐官など4人の民間人を含め9人で構成された。8月には電子政府の推進状況を有識者がチェックする「電子政府評価委員会」もスタートする。つまり、プラン−ドゥ−チェック−アクションのPDCAサイクルがようやく整ったのだ。しかし、GPMO設置後も、人事・給与業務システムをめぐる人事院とCIO補佐官の確執は続いていた。

「なぜ誰もみていないんだ」

 結局、平井大臣政務官の一声で、GPMO室員による5月17日の検証がようやく実現したのである。予想以上に杜撰なシステムは、改善にどれだけのコストがかかるか分からない。少なくとも10月以降に予定されていた各省庁への導入は一時凍結を余儀なくされる。33万人の国家公務員の人事管理が共通化されない以上、電子政府の実現は遠のかざるを得ない。

「いや、人事・給与はまだいい。もっと深刻なのは役人の職務権限のシステムだ」

 あるコンサルティング会社の役員が指摘する。行政官の存在証明ともいうべき職務権限は、総務省が開発を担当する「職員等利用者認証基盤システム」として共通化が計画されている。しかし、府省共通システムの中で最も開発が遅れており、ようやく最適化計画の策定事業者を募っている段階なのだ。それは相互に連動するシステム開発のスケジュールがまったく調整されていないことを意味する。

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