浮き彫りになったEA導入の功罪崖っぷち!電子政府〜迷走する4500億円プロジェクトの行方・第2回(1/2 ページ)

電子政府構築にあたって導入されたエンタープライズアーキテクチャ(EA)だが、はたしてその功罪とは――。

» 2006年08月10日 08時00分 公開
[山崎康志+編集部,ITmedia]

 電子政府構築にあたり、従来のシステム開発手法に代わって導入されたのが、エンタープライズアーキテクチャ(EA)だった。EAとは、大企業や政府機関、自治体などの組織において、その全体最適を実現するシステム開発の設計思想を指す。1990年代後半に米国の財務省や国防総省で導入され、ITガバナンスの有力手法となった。

 その特徴をひと言でいえば、組織の情報システムを階層化し、各階層ごとの業務内容や取り扱うデータを標準化する仕様書を作成することだ。これに基づいて設計された情報システムは、業務の改善や重複解消を実現し、組織全体の運営コストを削減する。

システム予算獲得の手段

 電子政府の実行計画は、この仕様書を「業務・システム最適化計画」と呼ぶ。2年半後の2005年度末までにその策定を各省庁に義務付け、アドバイザーとして民間のIT専門家であるCIO補佐官も採用された。

 さらに電子政府は、(1)各省庁に導入する内部管理業務向けの「府省共通システム」、(2)各省庁の事業に特化した「府省個別システム」―に分けられ、それぞれの性格に合わせて、きめ細かな最適化計画がまとめられるはずだった。しかし……。

「最適化計画は簡素な政府実現という本来の目的が忘れられ、情報システム予算を獲得するための手段になってしまった」

 前出の内閣府幹部は指摘する。策定された最適化計画は実に85件。大規模システムが多い府省共通システムだけでも23件に上る。各省庁は予算獲得のために、不要不急の業務までシステム化を乱発し、しかも、それらの最適化計画は何の精査もされないまま開発作業に入ろうとしているのだ。

 いや、既に開発されてしまったのが、前述の人事・給与業務システムである。これは府省共通の中核システムの1つ。しかし、開発を担当する人事院には初めからそんな認識はなかった。

「なぜ、我々がやらなければならないんだ」

 人事院の開発担当者の間からは、こんな愚痴が聞こえて来る。人事院は長年、沖電気工業のパッケージソフトを使って給与計算をしており、人事・給与業務システムは、これをベースにあくまで自庁向けに開発していたのである。ところが2003年7月、電子政府構築計画が決まり、急きょ府省共通システムの第一弾に仕立てられてしまった。

 この時点で、各省庁の給与体系、職位・職級制度をヒアリングすべきだったのだ。それを人事院は怠った。というより、「毎年、人事院勧告(国家公務員の給与)を一方的に押し付けるだけの役所に、そんなインセンティブが働くわけがない」(内閣府幹部)。職員700人の人事院に、国税庁や社会保険庁など2万人を超える大規模官庁にも通用する共通システムをつくらせること自体、無理だったと言える。

 それでも、富士通を元請けとして、沖電気、日本IBMの3社による開発コンソーシアムが結成された。当初は4-5社が参加を予定していたが、要件定義の曖昧さに怖れをなし、複数のベンダーが手を引いた。日本IBMも、自社が扱うリナックスと業務管理ミドルウェア『ウェブスフィア』を押し込んだ後は離脱の構えだ。結局、富士通がとりあえずシステムをつくり上げ、沖電気はハードウェアを納入する予定だったという。

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