これまでソフトウェア工学によって生み出されてきたさまざまな成果は、主としてビジネス・アプリケーション領域のソフトウェア開発で活用されてきた。しかし、近年急激に拡大している組み込みソフトウェア開発の領域では、これまでのソフトウェア工学の成果が必ずしも十分には生かされているとは限らない。
その理由としては、組み込みソフトウェアではソフトウェア単独の世界ではなく、周辺のハードウェア装置やプラットフォームの多様性など、さまざまな要因をその開発の中で考慮することが求められることが挙げられる。
また、さまざまな機器制御などをつかさどるシステムでは、OSのリアルタイム性をはじめとする性能がとりわけ重視されるからである。これらが従来のビジネス・アプリケーションのソフトウェア開発にはないさまざまな制約事項となって、組み込みソフトウェアの開発を困難にしている点も忘れてはいけない。
さらに、近年の組み込みソフトウェアは、より高機能化/多機能化が進み、制御的な側面と情報処理的な側面を併せ持っており、従来のように、一人のSEがすべてをカバーすることができないほど、技術の裾野が拡大しているのも事実である。過去、組み込みソフトウェア開発の効率化ならび生産性の向上を図るために、エンジニアリング領域についてさまざまな取り組みと関連ツールが提供されたが、ある特定部分のプロセス改善に機能の重きが置かれ、開発プロセス全体を通じた、適切な解決策(技法/技術)が生み出せないでいるのが現状である。例えばオブジェクト指向やMDA(Model Driven Architecture),あるいはコンポーネントを利用した開発等、ビジネス・アプリケーション開発である一定の成果を実現している手法/技法でさえ、組み込みソフトウェアの制約事項(ハードウェアのさまざまな制約、複雑な開発/テスト環境による再現性の困難、コンポーネント間の組み合せ問題、複雑なシステムへの再利用性 等)のため大きな成果を得られておらず、数々の制約事項を設けて利用しているのが現実である。
開発手法の未確立による弊害
開発環境の未整備による弊害
人材育成の無計画化による弊害
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