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» 2006年11月30日 08時00分 公開

無線LAN“再構築”プラン:いつが買い時? 標準化に向け加速する「11n」の実力 (1/3)

最大600Mbpsの通信速度を実現するIEEE 802.11nは、次世代無線LAN規格の最右翼にある。既存の無線LAN環境を激変させるポテンシャルをも持つ11nの抱える課題、そしてその可能性を探る。

[井上猛雄,ITmedia]

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 IEEE 802.11nは、最大600Mbpsの通信速度を実現する次世代の無線LAN規格だ。実効速度においても100Mbps以上を目指しており、現在広く利用されている無線LANとの互換性を維持しながら、そのパフォーマンスを一気に一ケタ引き上げる技術として期待されている。ここでは、11nの基本的な技術と最新動向について紹介しよう。

 IEEE 802.11n(以下11n)は、「MIMO」(Multiple Input Multiple Output)の技術をベースに、複数に分けた信号の列(ストリーム)を多重化し、パラレルで信号を伝送することによって高速化を実現する。周波数帯域は5GHz帯または2.4GHz帯を利用し、信号の変調にはIEEE 802.11a/g(以下11a/g)と同様に、「OFDM」(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)が用いられる。

 11nによる高速化の効果から、通信の際にチャンネルが占有される時間が短くなるため、既存の無線LAN環境で問題になっていた電波干渉の問題も緩和されるというメリットがある。また同様の理由で、無線端末側のデータ送受信時間も短縮できるため、ハンドヘルドやモバイル機器の実装において端末の消費電力が低減され、長時間利用が可能になるという効果ももたらす。無線LANでVoIP端末を導入する場合に、品質面や電力面で威力を発揮するわけだ。

 一方、電波到達距離も11a/gに比べて2倍ほど伸びるため、アクセスポイント(AP)の設置台数を抑えられるというメリットもある。同一エリアに設置するAPの台数を4分の1程度まで減らすことが可能だ。

最大600Mbpsまで高速化できるわけ

 このように、高速化によるメリットはとても大きなインパクトがある。では11nの技術では、なぜ600Mbpsまで一気に性能を高められるのだろうか。前述のように11nでは、MIMOとOFDMの技術が用いられているが、例えば同じ1ストリームにおいても(20MHz幅、800nsのガードインターバル時)、11a/gと比較して54Mbpsから65Mbpsへとスピードがアップしている。11nでは、信号を搬送するサブキャリア数を増やし、誤り訂正の符号化を効率化しているためである。

 さらに、オプションでガードインターバル(電波干渉を抑えるためにフレーム間に挿入される一定の時間間隔)を標準の800nsから400nsにすると、パフォーマンスが約72.2Mbpsにまで向上する。同じ20MHz幅で信号処理をしているOFDMでも、11a/gよりも1.5倍ほどの高速化が図れるわけである。これをオプションの40MHz幅で利用すると、さらに2倍以上のパフォーマンスになる。一般に無線通信では、帯域幅に比例して速度が向上するからだ。また11nでは、多重化できるストリーム数は4本までに対応している。そのため帯域幅が20MHzであっても、72.2Mbps×4=288.8Mbps、帯域幅が40MHzならば約150Mbps×4=600Mbpsまでの高速化が可能となる。

画像 フレームフォーマットと周波数ドメインとの組み合わせ。同じ1ストリームでも11nではレガシーの30%以上の高速化が図れる。さらに40MHz幅でストリームを増やせば、速度は600Mbpsになる(提供:アセロス・コミュニケーションズ)

 このほかにも、11nではデータの転送効率も大幅に向上した。11a/gにおいて、1つのフレームで送信できるユーザーデータのサイズは2034バイトほど。11nでは複数のユーザーデータやMACデータを1つにまとめて送信する方式を採用し、データサイズがMACヘッダ部も含めて最大65Kバイトになっている。

 伝送距離については、アンテナや無線機の数、速度などの要因によって変化してくるが、約50m以内の近距離となるため、スポット的な使い方となる。下の図は、速度と距離の関係を示したものだ。11nでは11gと比べて通信速度が向上したことに加え、伝達距離も伸びていることが分かる。また、同じ2ストリームでも送受信機の構成[2×2][3×3]によって、電波の減衰率が大きく異なっている。理論上は同じ300Mbpsでも、[2×2]より[3×3]の構成のほうが特性が良い。2つのストリームに加え、これらのストリームを合成する補助的な送受信系統を加えることで、「合成ダイバシティ効果」が得られるためだ。

画像 11nと11gの速度-距離の特性比較の一例。11nの2ストリームでも構成によって安定性が変わることが分かる(提供:アセロス)

画像 11nの2ストリーム(3×3)の構成例。送受信系統を1つ増やすことで合成ダイバシティの効果がプラスされている。またアンテナを増やせば、選択ダイバシティの恩恵を受けられる。n×m構成とストリームの数は必ずしも一致しないことに注意

 ここで注意したいのが、11nにおけるシステムの構成である。一般に送信側と受信側の数をn×mというように表現するとき、それが送受信機であるのか、あるいはアンテナであるのかは分からない。11n規格における構成の表現は、送信するデータの論理的な多重数(ストリーム数)で規定することになっている。つまり、11nではストリーム数に関して相互接続ができるように規格が作られていて、アンテナや無線機の構成についてはベンダー側の実装に任されている。

画像 11nの物理層仕様における必須項目とオプション項目。まだ現在審議中の項目もある(提供:アセロス)

 ストリーム数さえ決まれば、オプション項目も多く、自由度が高いぶんさまざまな特徴を持つ製品を作れることになる。実際に、11nの規格を基に200Mbps(±10%以内)の通信速度を実現する場合、ストリーム数(1〜4本)、帯域幅(20/40MHz)、変調方式、ガードバンドなどの組み合わせによって、28通りもの方法を選択できるのだ。

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