「時限くん」という製品に2度驚くアビバ

パソコン教室事業・最大手のアビバが2006年8月に開始した「アビバクラブ」。ユーザーにも従業員も満足できる環境を構築するために同社が選んだのは「時限くん」という一風変わった製品だった。

» 2007年01月10日 08時00分 公開
[西尾泰三ITmedia]

 「最初に製品の名前を聞いたときは、驚きと不安がよぎりましたよ。大丈夫か、って」と選定時の思いを笑いながら振り返るのは、アビバにおいて営業推進本部企画開発部Webマーケティング課セクションリーダーを務める永友一成氏。アビバが2006年8月に開始した「アビバクラブ」の立ち上げをめぐっての話である。実際に導入した後、永友氏はもう一度驚くことになる。

 パソコン教室事業・最大手のアビバは、直営教室が全国で約200校、アビバキッズと呼ばれる子供向けフランチャイズ教室を約400校抱える。そんな同社は2006年8月、PC教室でのハンズオン形式との両輪となることを目的にアビバ受講生専用のWebサイト「アビバクラブ」を開設。「教室での講義と組み合わせたブレンディッドラーニング」(永友氏)を提供している。

アビバクラブ 就職や転職、資格取得など昨今のニーズを強く反映したコンテンツが並ぶ「アビバクラブ」(画像出典:アビバ)

 教室では実施していない裏技テクニック講座や、就職・転職成功セミナーなどをFlashビデオで動画配信するほか、パソコントラブル対応ヘルプデスクサービス、履歴書や職務経歴書のテンプレートダウンロードサービスなどを提供し始めた。このうち、動画配信については、「ビデオ教材など講義型のコンテンツを一方的に流すのではなく、ユーザーからの質問やチャット、アンケートへの回答といった双方向型のコンテンツとするためにFlash以外は考えられなかった」と永友氏、Adobeの「Flash Media Server」を採用したストリーミング動画配信を提供している。

永友氏 すでに6000人を超えているアビバクラブの受講者を年度内には1万人規模にしたいと永友氏。受講生の50%をアビバクラブに取り込むのが同社の掲げる目標で、現在教室のない沖縄などの地域でも利用可能なるよう、アビバクラブだけの入会も今後予定しているという

ストリーミングの限界

 動画のストリーミング配信による教育サービスは、同社のように全国展開している企業にとっては、必ずしも十分なソリューションではない。特に、地方では都市部のようにブロードバンド環境の整備普及が進んでいないことも多く、ストリーミングに必要な帯域幅を確保できないこともある。また、会員制のサイトであるにもかかわらず、ストリーミングという手元に何も残らない形式に違和感を覚える人も少なくない。

 安定した動画を届け、かつユーザーの所有欲も満たすにはどうすればよいか。その答えがユーザーのローカルPCにデータを置くダウンロード型配信である。これであればナローバンドであっても一度ダウンロードしてしまえばストリーミングのように映像が途切れることはない。

 8月にアビバクラブが開始されたとき、上記2つの配信方法のうち、ストリーミング配信だけが行われていた。「(ダウンロード型配信も)すぐに提供したかった」と永友氏。しかしそこにはもう1つ解決すべき問題があった。著作権保護である。多くの有益な教育コンテンツが、不正にコピーされてしまってはコンテンツホルダーとしてはたまらない。双方向性は確保しつつ、ダウンロードされたファイルが一人歩きすることのないよう、あらかじめ決めておいた日時や日数で自動的にユーザーのPCから消去され、かつ、コピーや印刷などの操作も抑制する、そんな製品を早急に選定することが求められていた。

 「比較検討の際に、多くのB2B向け製品の資料を見ましたが、専門用語や難解な言い回しが多く、結局何ができるのか分かりにくいものが多かった。状況はひっ迫しており、われわれが求めていた機能をすべて備えたものがタイミングよく見つかった。名前からしてシンプルなのが伝わってきた」と話す永友氏が選んだのが「時限くん」である。

由良さん 時限くんの導入コストに関して、「名前のかわいらしさに油断していました。ギャップがあった」と笑うのは営業推進本部企画開発部Webマーケティング課ディレクターの由良視紀子さん。時限くんAgのUnlimited版であることがギャップの理由のようだが、受講者数が今後増加しても追加の料金が発生しないことを考えるとアビバにとっては最良の選択ともいえる。

かわいい名前とは裏腹の実力

 時限くんは、アプリケーションとハードウェア間の通信を監視/制御し、ファイル単位に埋め込まれた規制情報を基に、ファイルの利用規制を実現する製品。「デバイスドライバ技術」と呼ばれるデバイスドライバ層からファイルを操作・制御する技術により、データファイルの形式を問わずに自動上書削除が行えるのが特徴となっている。一般的な暗号化/復号ソリューションでは復号後の制御を実現するためにオンライン接続されたクライアント/サーバ環境を前提とするものが多い中、時限くんは専用のクライアントを用いることで、スタンドアロン環境での時限化を可能にしているのがポイントとなる。

 アビバは日本SGIのサポートの下、システム構築を進め、すでに稼働しているシステム運用に大きな変更を加えることなく、2006年11月、時限くんの本格稼働に入った。現在のアビバクラブの動画コンテンツには、ストリーミング配信の開始ボタンだけでなく、ローカルにダウンロードするためのボタンも用意されている。

 アビバの場合は、提供するコンテンツも、また受講者数も増えるであろうという予測から、時限くんファイルの一括自動生成機能を実装した「時限くんAg」のUnlimited版を導入している。専用のクライアントは「アビバファイルマネージャー」という名称になっており、ユーザーはこれをあらかじめインストールし、ダウンロードした動画コンテンツを再生する。

 ダウンロードしたファイルは実行するまでは存在しているが、一度実行するとPC上から完全に消失する。以後は、アビバファイルマネージャーを起動することでそのデータが参照できるが、それもアビバ側で指定した日数(60日程度)が経過すると利用できなくなる。もちろん自動で削除される時限指定は、相対的な時間も絶対的な時間も指定可能。時限化のための操作も簡便なもので、「ファイルを圧縮するような感じで、時限化が行える。専任の作業者すら必要ないほど簡単」と永友氏はその使い勝手の良さを驚きを交えつつ評価する。

従業員の個人情報は企業が保護すべき対象だ

 顧客ユーザーにとってのメリットが多いように感じられる時限くんの導入だが、由良さんは従業員にも大きなメリットが存在していると話す。

 受講者の分布を見ると、20代、30代の女性が全体の7割を占めているアビバだが、教室で教える講師従業員の大半も女性である。各教室店舗はそれぞれWebページを持っており、講師従業員の簡単なプロフィールなども紹介されていることが多い。配信している動画でも女性が多く登場しているが、それらが不正にさらされてしまうような環境では従業員は安心できない。

 「Youtubeのように個人が情報を簡単に発信できる現代では、例えば講師の動画や個人情報が紐付けられるなどしてさらされてしまうような危険性も企業は考える必要があります。そうした脅威からどう従業員を守るかという観点でも、時限くん導入の意義は大きい」(永友氏)

 「時限制限を掛けるという機能について言えば満足度は100%」と永友氏。実際には、再生までの待ち時間をダウンロードと比べ大幅に減少し、かつメディアファイルもローカルに残せるプログレッシブダウンロードに時限くんはまだ対応していない。これは、FlashではSWFファイルとFLVファイルの2つにファイルを分けることでプログレッシブダウンロードを行うが、現時点では時限くんが同時に複数のファイルを時限化できないためであるが、「できれば早期にプログレッシブダウンロードによるサービスを提供していきたい」と時限くんの対応を望んでいる。

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