高速PLCにもあった互換性問題「エンタープライズPLC」のススメ(1/3 ページ)

PLCの原理はアクセス制御と変調の方式に集約される。だが現在、モデムの通信方式には世界的な標準規格と呼べるものがない。異なる製品が共存できる日は来るのだろうか。

» 2007年02月06日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

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 PLCは、日常で利用されている交流に、PLC信号を乗せて伝送する技術である。搬送波となる交流は、関西圏では60Hz、関東圏では50Hz。1秒間の周期で60個または50個の正弦波(キャリア)に、PLC信号の波を副搬送波(サブキャリア)として乗せていく。

 具体的には、PLCモデム、またはPLCアダプタ呼ばれる機器を利用する。これは、イーサネットのインタフェースを備え、イーサネット信号をPLC信号に変換する(あるいはその逆にPLC信号に変換する)ための装置だ。PCとPLC機器をLANケーブルで接続し、PLC機器側の電源ケーブルをコンセントに挿す。そしてPCからデータフレームを送ると、それがPLC機器からPLC信号に変換され、電力線を経由して、受け手側のPLC機器に伝えられる。ここで、PLC機器はPLC信号を再びデータフレームに変換し、相手先のPCに届けられるという仕組みである。

PLCのキモとなる2つの要素

 PLC機器の原理で最も要となる部分は、変調方式とアクセス方式である。PLC機器の処理において、PLC信号を作り出すために用いられる変調方式は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)とSS(Spread Spectrum:スペクトラム拡散)の2種類に大別される(このほか従来の低速PLCでは、シングルキャリア方式、選択型シングルキャリア方式などが用いられる)。

 OFDMは、ADSLや無線LAN(IEEE 802.11a/g)などで採用されている変調方式だ。帯域内で多数のサブキャリア(副搬送波)に分割し、そこに信号のビット列を細切れにして乗せていくため、一度にたくさんのデータを送ることが可能だ(図1)。ゆえに、OFDM方式は高速化に向くというメリットがある。サブキャリア数はPLCチップによって異なる。例えば松下電器製のチップでは、約500本ほどのサブキャリアを利用する。

図1 図1●OFDM方式のイメージ。複数のサブキャリアに分け、そこに信号のビット列を細切れにして乗せていくため高速化が可能。サブキャリアの周囲に発生する余計な波形がサイドローブである

 またOFDM方式では、データを確実に送るための制御機能がある。特定の周波数のサブキャリアだけを立てないようにするか、サブキャリアごとに出力やデータの乗せ方を変えられる。前者の制御を利用すれば、電力線から漏れる電磁波が同一周波数帯域の無線通信に影響を与えても、特定の周波数を使わないようにすることができる。つまり、ノッチをかけられる。

 一方、後者の制御では、各サブキャリアのS/N比を比較し、ノイズの多い周波数帯のサブキャリアには対してはデータのビット数を少なく割り当て、逆にノイズの少ない周波数帯のサブキャリアに対してはビット数を多く割り当てることによって、効率的にデータを伝送できる。

 なお松下電器産業のPLCチップでは、このOFDM方式をベースに改良を加えた「Wavelet OFDM方式」が用いられている。これはサブキャリアの周囲に発生する余計な波形(サイドローブ)を減らす工夫を盛り込んだ技術だ。最近では他方式でも同様にサイドローブを減らす改良がなされている。

 次にSS方式は、スペクトラム拡散という言葉通り、元の信号を拡散させて電力線で伝送し、再び復調する方式だ。元となる信号を使用帯域に拡散させるためには、「拡散符号」を変調信号に掛け合わせる。すると信号成分が帯域全体に広がり、信号自体の強度が下がる。受信側では逆に拡散符号を用いて、拡散した信号を元の信号に戻す(図2)。

図2 図2●スペクトラム拡散方式のイメージ。元の信号を拡散させ、再び復調する。信号の伝送中に大きなノイズが乗ったとしても復調時にはそれが分散されるため、ノイズ耐性に優れた伝送が可能

 この仕組みを利用すれば、たとえ信号を伝送中に大きなノイズが乗ったとしても、復調時にはノイズが分散されるので、ノイズ耐性に優れた伝送が可能になるわけだ。ノイズの多いビルや工場の通信でも、パケットロスやデータ伝送の遅延が発生しにくく、長距離にわたり安定した通信環境を提供できる。とはいえ、SS方式の場合は信号の搬送波を1つしか使わないため、高速化できないという弱点もある。

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