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» 2007年04月24日 08時00分 UPDATE

まつもとゆきひろのハッカーズライフ:第2回 キーボードへのこだわり (1/2)

生産性にこだわる職人は、自分の道具を選びます。現代のコンピュータ職人が最も接する道具といえば、キーボードではないでしょうか。今回は、ハッカーのキーボードへのこだわりについて考察します。

[Yukihiro “Matz” Matsumoto,ITmedia]

キーボードと鞍

 生産性にこだわる職人は、自分の道具を選びます。現代のコンピュータ職人が最も接する道具といえば、キーボードではないでしょうか。今月はハッカーのキーボードへのこだわりについて考察します。

 ハッカーのキーボードとして最も有名なものはHappy Hacking Keyboardでしょう。これは国内ハッカーの「はしり」とでも呼ぶべき、東京大学の和田英一名誉教授*の監修で企画された商品であり、「UNIXハッカーのためのキーボード」と高く評価されています。特徴としては、こだわりのキースイッチ、Sun Type3キーボード*互換のキー配列、最小限のキー数*とそれによるサイズの削減などがあります。和田教授のキーボードへのこだわりは、以下のような談話からもうかがえます。

米国西部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いでいく。馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。今やPCは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。


 最近では、PCは数年で性能が陳腐化します。CPUが遅い(遅くなるのはCPUではなくソフトウェアなのですが)、HDDの容量が足りないなどの不満から、どうしても買い替えてしまいます。しかし、手になじむ高品質のキーボードは、PC本体を買い替えても、ずっと使える大事なインタフェースであるというのは分かる気がします。日常接する時間の長いインタフェースであればこそのこだわりであると言えるでしょう。

十人十色

 キーボードに対するハッカーのこだわりは、いろいろな形で現れます。知人のPerlハッカーは、アルファベット入力にDvorak配列*を使い、日本語入力にT-Code*を使っています。キーボードやキー配列にこだわる知人は多いですが、DvorakとT-Codeの両方を使っているのは彼だけです。

 これまたハッカーとして知られる産業総合研究所の増井俊之さんは、キーボードの配列を変更しているようです。Rubyist Magazine*第5号のインタビューによれば、最近あまり使わなくなったセミコロン(;)をEnterキーと置き換えてしまったのだそうです。

増井 それから、最近気がついたことは、セミコロン打たなくていいですよね、あんまり。キーボード入力してる時、セミコロンって小指にあるじゃないですか。これは非常にいいポジションなんだけど、CとかPerlでは打つけど、Rubyでは打たなくていいですよね。で、使わないキーがこんないいところにあるのはもったいないから、これリターンにしちゃったんですよ。

一同 (爆笑)

増井 だから、わたしの機械は今全部、右手の小指がリターンなんです。すると手を全然動かさなくていけるんですよ。普通の人は、バックスペースで右手を動かすし、リターンでも動かすから、かなり無駄なんですよ。日本語を入力しててもかなり手が動いてるはずです。でも、ここをリターンにしてから、ほとんど手を動かさずに舐めるように入力できるようになりましたよ。


 Rubyに合わせてキー配列を変えるというのも、「ブレーキが壊れている」ハッカーらしい態度ですね。このインタビューには、ほかにも増井さんのハッカー的人格の原点がうかがえるエピソード*がたくさん載っていますから必読です。

このページで出てきた専門用語

和田英一名誉教授

和田教授は、パラメトロン計算機の開発やAlgol Nの設計、また和田研フォントの開発などでも知られている。

http://www.ipsj.or.jp/katsudou/museum/pioneer/e-wada.html

Sun Type3キーボード

わたしも学生時代に愛用していた名作。その後、SPARC Stationに付属していたType4キーボードはガクンと品質が下がっており、がっかりしたことが記憶に残っている。

最小限のキー数

初期のHappy Hacking Keyboardには、カーソルキーすら存在しなかった。どうしても必要なときには、ファンクションキーと併用することで代用。さすがに「使いにくい」との声が上がったのか、Happy Hacking Keyboard Lite以降は小さなカーソルキーが追加されている。

Dvorak配列

August Dvorak博士が開発したキーボード配列。Dvorak Simplified Keyboard(DSK)と呼ばれることもある。これに対して、一般のキーボード配列は上段の並びからQwerty配列と呼ばれる。Dvorak配列は図1のような配列で、母音が左手に集中しているため、学びやすく打ちやすいと言われている。

Dvorak配列 図1 Dvorak配列

T-Code

無連想2ストロークによる日本語入力方式。2つのキーの組み合わせに漢字、ひらがな、カタカナが割り当てられていて、それらを直接入力する。変換作業がないため、高速に入力できるが、「覚えていない文字は打てない」のが弱点。ただし、ひらがなさえ覚えていれば変換による入力は可能で、変換した文字のストロークを教えてくれる。

Rubyist Magazine

「日本Rubyの会」の有志が発行しているWebマガジン。Rubyist Hotlinksという連載では、Rubyに関連する有名人のインタビューを掲載している。

原点がうかがえるようなエピソード

わたしが一番印象に残ったのは、ICチップをつないでマイコンを作った話。1970年代後半にはマイコンキットが(小さな)ブームになったが、それを見て「そんなキットを買ってるやつは『なんと生ぬるいんだ』とか『回路なんかできてるじゃん、面白くないな』とか思ってた。自分で回路を考えて、チップを全部そろえて、配線して、それを制御するプログラムを全部書いて、というのがコンピュータの自作だと思ってた」というのは尋常ではない。


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