シャープの参入で勢いづくAV仕様PLC HD-PLCと一騎打ちに「エンタープライズPLC」のススメ

住友電工が開催した事業者向け高速PLCのセミナーで、シャープがHomePlug AV1.1方式のPLCモデムを電撃発表。ホーム市場で優位にある松下電器陣営のHD-PLC方式と一騎打ちになりそうだ。

» 2007年06月26日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

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 住友電気工業(住友電工)は6月25日、事業者向けの高速PLC(Power Line Communications:電力線通信)に関するプレス発表を開催した。今回の発表は、宅内PLC製品の規格を推進する「HPA(HomePlug Powerline Alliance)」に関するものだ。

 PLCを推進する業界団体としては、HPAのほかに、アクセス/宅内PLC技術の相互接続や共存仕様を進めるUPA(Universal Powerline Association)や、松下電器が中心となり宅内PLC技術の共存仕様を検討しているCEPCA(Consumer Electronics Powerline Communication Alliance)がある(関連記事)。

KDDIのFTTHサービス向けにPLCを採用

 住友電工は、スペインのDS2製チップを搭載したUPA仕様のPLCモデムを企業向けに提供している。その一方で、事業者向け(コンシューマー用)製品も展開するために、同時にHPAにも所属する。5月には、KDDIの「ひかりoneサービス」の加入者向けに、HPA陣営のHomePlug AV方式に準拠するPLCモデムの提供を開始した。

画像 住友電工の事業者(コンシューマ)向けPLCモデム(右側)と、KDDIに提供する「ひかりoneサービス」加入者向けOEM製品(左側)

 HomePlug AVは家庭内のAV用途を目指した仕様で、理論上では200Mbpsの通信速度を実現できる規格。住友電工ブロードバンド・ソリューション事業本部PLC開発部の弘津研一氏は「HomePlug AVの技術は、映像配信サービス向けに優れた通信特性や、耐ノイズ性、QoS機能などを備えている」と、同方式の優位性をアピールする。

 現在、インテルが代表を務めるHPA陣営には国内外合わせて75社の企業が参加、3つの団体の中では最大の規模となっている。チップメーカーとしてIntellon、Arkados、Conexant、SPiDCOMなど6社に加え、新たにHuawei and Corporate Systemsが会員となった。すでにHomePlugをベースにしたチップは、ワールドワイドで1000万の出荷を達成している。「ほかの団体ではチップメーカーが1社だけだが、HPAでは7社あり、価格競争面でコストが安くなる可能性もある」(引津氏)という。

 今回の発表では、スピーカーとしてインテル、米Intellon、米Conexant、シャープの各担当者もゲスト参加。インテル 研究開発本部デジタル・コンテンツ・テクノロジー・グループの畑中康作氏は「2008年にデスクトッププラットフォーム(VIIV)のオプションの1つとして、HomePlug AVの技術を検討している」と述べた。また、この6月にはxDSLの技術検討と普及促進を目指すDSLフォーラムでも、HomePlugの技術がTR-069(トリプルプレイのサービスプロバイダー向け規格)に準拠したホームネットワークゲートウェイに最適なインタフェースになるという理由で採用されたという。

 Intellonの担当者は、「同社のチップがフランステレコムで採用され、HomePlugの技術を利用したホームゲートウェイによって、IP-TVサービスを開始した」と述べ、ほかのオペレータでも広がっていくだろうと予測した。一方、Conexantの日本法人であるコネクサント・システムズは、2003年からHomePlugの製品を発売しているが、HomePlug AV仕様のチップを今年の第3四半期にサンプル出荷する考えだ。HomePlug AV仕様のチップの登場は、先のIntellonに次いで2番目となる。「国内市場にできるだけフィットする製品を出したい」(コネクサント・システムズ)。

HomePlug AV準拠モデムを発表したシャープ

 今回は、もう1つ大きなトピックスがあった。シャープがHomePlug AV1.1方式に準拠したPLCモデムを発表したことだ。新製品は、LAN×1ポートおよびLAN×4ポートのPLCモデムが2台セットになった「HN-VA40S」、LAN×1ポートが2台セットになった「HN-VA10S」の2タイプが用意されている。同社の担当者によれば、「いずれも最大実効速度は85Mbpsで、安定したホームネットワークを実現できる」という。価格はオープンプライスだが、想定価格はHN-VA40Sが2万4000円、HN-VA10Sが2万円程度だとしている。

画像画像 シャープのPLCモデム「HN-VA40S」と「HN-VA10S」。HomePlug AV1.1方式に準拠し、最大実効速度は85Mbps。前部には速度が分かるLEDを装備(30Mbps以上で表示色が変わる)。VA40Sの背部には4ポートのLANインタフェースが見える

 また別会場において、シャープのPLCモデムを利用したデモンストレーションも実施された。このデモは、シャープ、住友電工双方のPLCモデムを利用した相互接続性の実証も兼ねていた。HPAでは7月から、多数のベンダーによるHPA相互接続性試験を予定している。この試験にパスすれば「Certified for HomePlug AV」のロゴが付与されるという。いわばWi-Fiアライアンスの認定ロゴのようなものだ。

 デモでは、ハイビジョンストリームサーバ(ノートPC)、コンテンツストレージサーバ(バッファローのLink Station Living)、インターネット接続のブロードバンドルータ側に住友電工のPLCモデムを利用し、一方シャープのPLCモデムは、同社の「インターネットAQUOS20」、「見楽る」ネットワークプリンタなどに接続。ハイビジョンストリームサーバの映像やコンテンツストレージのデータが途切れることなく、AQUOS側で精細に表示されていた。デモ環境は実環境とは異なるものの、実効速度で80Mbps程度は出ているという。

画像 シャープによる高速PLCのデモンストレーションでは、ハイビジョンストリームサーバの映像や、コンテンツストレージのデータが途切れることなく表示されていた。住友電工のPLCモデムとの相互接続性も確認できた
画像 こちらはインテロンのデモ。こちらも相互接続性を確認していた

 今後、このように家庭内でPLCモデムの利用シーンが徐々に広がっていくことが予想される。HomePlug AV方式のPLCモデムは、すでにZyxel、NETGEARなどが発表しているが、シャープがこの陣営に加わることで、国内のホームネットワーク市場では松下電器によるHD-PLC方式とさながら一騎打ちの様相を呈しはじめた。

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