WebベースのAjaxWindowsは人々に受け入れられるか?

MP3.comとLinspire(Linuxディストリビューター)の創業者であるマイケル・ロバートソン氏は、世界はWeb上の「仮想」デスクトップを受け入れる準備ができていると考えていると言う。彼は正しいのだろうか?

» 2007年09月14日 08時01分 公開
[Steven J. Vaughan-Nichols,eWEEK]
eWEEK

 MP3.com、Linspire(Linuxディストリビューター)、SIPhone(VoIP企業)など数々のベンチャー企業の創業者である億万長者のIT起業家、マイケル・ロバートソン氏という人物についてはさまざまな見方があるだろうが、同氏が大胆不敵な人間であることは確かだ。同氏は自身が手がけたベンチャービジネスで、音楽業界、Microsoft、Vonageといった巨人に戦いを挑んだのだ。そして今度は、「AjaxWindows」で再びMicrosoftに狙いを定めている。

 ロバートソン氏によると、AjaxWindowsは「Webに接続された各種のコンピュータからブラウザだけを使って体験できる完全な仮想PC」だという。WindowsであれMac OSであれ、AjaxWindowsは実際に稼働しているデスクトップOSの種類は問わない――現代的なブラウザ(推奨はFirefox 2.0x)さえ動作していれば、AjaxWindowsを利用できるという。

 もちろん、このアイデア自体は特に目新しいものではない――メインフレームにタイムシェアリング方式でアクセスしていた端末の時代にまでさかのぼることができる。とはいえ、今日では何キロバイトというストレージではなく何ギガバイトものストレージがあり、1台のセントラルコンピュータだけに頼るのではなく、全国数カ所のデータセンターに処理パワーを分散することができる。

 最近では、この1950年代のコンピューティングモデルを21世紀型に改造した技術、つまりSaaS(Software as a Service)に誰もが飛びついている。CRM(カスタマーリレーションシップ管理)大手のSalesforce.comのように特定業務サービスを提供する企業は、SaaSが非常にもうかるビジネスであることを証明した。Symantecなどの古参ITベンダーもSaaSに熱い視線を注いでいる。

 Microsoftは例によって、SaaSをめぐる方針がいまひとつはっきりしない。確かに、スティーブ・バルマーCEOはパートナー各社向けにMicrosoft SaaSの推進に努めているが、Microsoftのケビン・ターナーCOO(最高運営責任者)は、SaaS戦略および同社のLive戦略で収益を上げる方法を今も模索中であることを認めている。「われわれはまだ、これらの問題の答えを見つけ出していない」とターナー氏は語る。

 ロバートソン氏はそういった問題とは無縁のようだ。「AjaxWindowsコンピュータをセットアップすれば、既存のコンピュータの基本データと同期化することによって、類似した仮想PCを作成できる。文書、ブックマーク、連絡先といった基本データに加え、壁紙や音楽などもAjaxWindowsコンピュータにコピーできる。仮想コンピュータに関心がない人にとっても、これはファイルをバックアップするための便利な方法だ」と同氏は説明する。

 「AjaxWindowsを徹底的にカスタマイズすることも可能だ。例えば、自分の好きな検索エンジン、ホームページ、Webメールをデフォルトとして選択することもできる。優れたネットリソースを組み合わせて、1つのシームレスなエクスペリエンスを実現できるデスクトップ環境を提供するのが目標だ」(同氏)

 ロバートソン氏はこの目標を実現するために、同氏が提供するサービスを利用している。例えば、ユーザーは同氏が運営するMP3tunes Lockerに音楽ファイルを保存できる。しかし、同氏はすべて自前でやろうとしているわけではない。AjaxWindowsではGoogleのGmailを利用する。これらのサービスのアカウントを持っていなくても心配無用だ。AjaxWindowsはユーザーのために自動的にMP3tunesのアカウントを作成し、Gmailのアカウントを持っていないユーザーにはセットアップ作業をガイドしてくれる。

 AjaxWindowsは、既存サービスの単なるマッシュアップではない。ロバートソン氏は、文書作成用の「AjaxWrite」、プレゼンテーション用の「AjaxPresents」といったプログラムも提供している。同氏によると、これらのアプリケーションはMicrosoft Officeのファイルフォーマットに対応しているという。

 AjaxWindowsは面白そうだが、わたしは疑問を抱いている。技術面では何も間違ったところはない。AJAX(Asynchronous JavaScript and XML)は、Web2.0アプリケーションの作成に有効であることが既に実証されている。そして、わたしがノースカロライナの山腹で3MbpsのDLS回線を利用できるようになれば、仮想デスクトップを現実的な可能性とするのに十分な帯域幅が得られるだろう。

 しかしこの点についてもう少し考えてみよう。わたしには、AjaxWriteを3Mbpsで利用するという選択肢と、転送速度3Gbpsのハードディスクを搭載し、 SLED(SUSE Linux Enterprise Desktop)10 SP 1で動作するHP A6040N PavilionデスクトップPC上でOpenOffice 2.2を利用するという選択肢があるわけだ。わたしはこの場合、1000倍高速なローカルドライブの方を選ぶだろう。

 それに、わたしのローカルドライブには誰も侵入できないという安心感がある。ローカルデスクトップではなく、どこかのデータセンターにあるリモートドライブにわたしのデータが置かれているのでは、データの安全性が心配だ。

 わたしはAjaxWindowsをインストールしようとしているが、現在、同サイトは非常に混雑しており、まだ果たせないでいる。ちなみに、わたしのPCは2Gバイトのメモリを搭載している。少なくとも3つのFirefoxウィンドウをいつも開いており、Evolution(メールクライアント)、GAIM 1.5(IMクライアント)、Banshee(音楽プレーヤー)、OpenOfficeに加え、ODF(Open Document Format)に対応していない友人のためにWord 2003をLinux上で動作させているが、このPCにまだまだ余裕がある。なお、Word 2003の動作にはCrossOver Office 6.1を利用している。

 もちろん、AjaxWindowsはリリースされたばかりなので、誰もが試したいと思っていることだろう。しかし上で述べたスループット比較を思い出していただきたい。たとえAjaxWindowsがそれなりに高速であったとしても、3Mbpsという回線速度では、わたしのようなパワーユーザーには受け入れられないだろう。3Gbpsであれば余裕なのだが……。

 SaaS方式が有利なのは共同作業を行う必要がある場合だ。しかしこれについても、既にわたしは効果的な手段を見つけ出した。Google Appsである。これはわたしだけの意見ではない。ITコンサルティング大手のCapgeminiは最近、自社の企業顧客にGoogle Apps Premier Editionを提供すると発表した。このたった1つの決定で、Fortune 500企業の100万台ほどのデスクトップでGoogle Appsが利用できるようになったのだ。大したものではないか。

 ロバートソン氏はGoogle Appsに対抗するつもりなのだろうか。同氏はこれまで、大きな技術変化の到来に人々が気づく前に、その波に乗ってきた。そして十分に金もうけをしたら、次の波を見据えて新たなベンチャービジネスを立ち上げてきたのだ。しかし今回は、波に乗り遅れたようだ。SaaSとWeb 2.0の波は既に通り過ぎてしまい、ロバートソン氏は凪の中に取り残された。

 今後もポピュラーなオンラインデスクトップが登場するだろう。しかしわたしの予想では、それはGoogle Appsの次世代版であり、AjaxWindowsではない。結局、こういったシン(軽量)デスクトップがどれほど重要になろうとも、ほとんどの人々はこれからも、ファット(重い)オフィスアプリケーションを組み込んだファットクライアント型デスクトップで仕事を処理するだろうとわたしは予想する。しかし、こういったファットデスクトップでLinuxをベースとするものが増え、オフィススイートがMicrosoftの製品ではなくOpenOfficeを中心として構築されるようになったとしても、わたしは驚かないだろう。

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