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» 2007年09月26日 02時00分 UPDATE

まつもとゆきひろのハッカーズライフ:第7回 言語の重要性その2 (1/2)

世の中にこれだけたくさんの言語があるのに、さらにまた新しい言語を作ろうと思いつく時点で、すでに相当INSANEでしょう。しかし、言語を変化させることはあらゆるもののありかたを変化させることでもあります。つまり、言語のデザインは、究極の自由なのです。

[Yukihiro “Matz” Matsumoto,ITmedia]

本当のハッカーの定義

 しばらく前の話になりますが、VA Linux Business Forum 2005においてOSS Roundupという討論会に参加しました(関連記事参照)。これは、わたしを含むオープンソースに深くかかわっている5名のパネリストがオープンソースに関して自由に語る形式のものです。この中で「ハッカーとは何か?」という話題が登場しました。一番定義が緩いのは「オープンソースプログラマー」の肩書でテレビにも出演していらっしゃる小飼弾氏で、「(民主主義社会では)あらゆる人はハッカーである」と定義しておられました。それはまた極端な。

 でも、これをきっかけにイベントが終わった後、「本当のハッカーの定義は何だろうか?」と改めて考えました。わたしは、小飼さんほど範囲を広げるつもりはないのですが、自分の中で「ハック」という用語をプログラミングに限定しているわけでもなさそうです。あえて言語化すると「普通の人は変えられないと思い込んでいるものも、変えることができる力を持つ人」くらいでしょうか。そして、コンピュータに関連した領域では、その力の源はプログラミング能力にありそうです。コンピュータに関係ない領域でも、政治力を駆使して社会を変革する「ソーシャルハック」とかありそうな気がします。経済力と常識にとらわれない発想力で社会に大きな影響を与えるライブドアの堀江さんなどは、「ソーシャルハッカー」なのかもしれません。まあ、そんなわたしでも、何の修飾もなしに「ハッカー」という単語を使えば、やはりプログラミングを行うハッカーのことを指しますけどね。

キーワードはINSANE

 もっと最近の話になりますが、2005年8月1日から5日まで米オレゴン州ポートランドで開催されたO'Reilly Opensource Convention(通称OSCON*)に参加してきました。前述の小飼さんとは、ここでもまたご一緒しました。また、デイビッド・トーマス、リッチ・キルマー、ジム・ウェイリッチなど、Rubyを通じて知り合った海外の友人と再会できたのもうれしいことです。世界中からオープンソースに関心がある人々とハッカーが集う様子は壮観でした。

 さて、OSCONで強く感じたキーワードはINSANEです。辞書を引くと「正気じゃない」「精神異常の」とか「気違いじみた」「ばかげた」「非常識な」とかひどい意味が並んでいますが、実際にはもっとずっとポジティブに使われています。口語で「正気の沙さ汰たじゃない」や「普通じゃない」などというときのニュアンスに近いでしょうか。この連載で何度も繰り返しているハッカーの「ブレーキが壊れている」様子をよく表現していると思います。

 OSCONの4日目には、ラリー・ウォール(Perl)、ラスムス・ラードフ(PHP)、グイド・バンロッサム(Python)と一緒にランチを取る機会がありました。言語デザイナーとして、こんな豪華なメンバーのランチに参加できたのは光栄の極みです。Unicode対応のやり方とか、最近のトピックについていろいろと話をした*のですが、ここでもINSANEは話題になっていました。グイドがラリーに向かって「あなたたち(Perlピープル)のINSANEさはけた違いだ」といっていましたが、これは「あなたたちは気が違っている」という意味ではなく、「われわれも確かにINSANEだが、Perlの人たちにはかなわない」というニュアンスでしょう。また、グイドは、「われわれはこれだけ後方互換性に気をつかって言語を変化させているのに、まだ変化が速いといわれる」と、ちょっと残念そうでした。確かにPythonピープルは保守的な人が多いかも。先入観でしょうか。それに比べると、Rubyはずいぶんいいかげんだなあ。

このページで出てきた専門用語

OSCON

OSCON 2005の情報ページやプレゼンテーション資料は以下のURLで公開されている。

http://conferences.oreillynet.com/os2005/

http://conferences.oreillynet.com/pub/w/38/presentations.html

いろいろと話をした

LL(Lightweight Language)言語のデザイナーが顔を合わせてざっくばらんな話ができる機会はそうそうあるものではなく(前回は2年前)、せっかくの超貴重な機会なのだが、わたしは英語がつたなくてあまり突っ込んだ話はできなかった。痛恨。


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