パートナーにSaaSの難問を突き付けるSAPの「Business ByDesign」(1/2 ページ)

SAPの巨大な新ソフトウェアスイートは、安価で使いやすいアプリケーションを提供するかもしれないが、チャネルパートナーにとってはチャレンジとなりそうだ。

» 2007年10月01日 17時37分 公開
[Renee Boucher Ferguson,eWEEK]
eWEEK

 SAPは、ミッドマーケット(中堅企業市場)に狙いを定めたオンデマンド型統合アプリケーションパッケージ「Business ByDesign」を発表した。同社では、このソフトウェアスイート「Business ByDesign」の開発に4年の歳月と4〜5億ドルの資金を投じたという。

 世界最大のビジネスアプリケーション企業と言われるSAPによると、このスイートは同社の従来のオンプレミス(自社運用)型ERPソフトウェアとはまったく異なるという。Business ByDesignは安価で、非常に迅速に導入することができ、TCO(総合保有コスト)も低い、と同社幹部は説明する。

 この迅速、簡単、安価というアプローチは、独バルドルフに本拠を構えるSAPだけでなく、同社が構築を目指しているパートナーチャネルにも従来とは異なる思考方法を要求する。現在、SAPのミッドマーケット向けソフトウェアを販売するパートナーは約2500社で、顧客数は2万5000〜2万9000社に上るが、これらのパートナー各社はソフトウェア業界では標準的なビジネスモデルを中心としたビジネスを構築しているのが現状だ。すなわち、薄利多売ではなく、年額方式のライセンス料金とメンテナンス費用で高い収益を得ているのである。

 これに対し、Business ByDesignモデルは薄利多売型であり、比較的低い月額収入に依存する。

 世界最大規模のSaaS(Software as a Service)チャネルを構築したSalesforce.comなどの企業は既に、「オンデマンド」という新分野を開拓しつつある。SaaSの世界では、利益を確保するまでの道のりがオンプレミス型ソフトウェア分野の場合よりも長いというのは周知の事実だ。

 SAPがBusiness ByDesignを販売する上で必要とするパートナーのタイプも、従来とは異なる。同社の現在のパートナーは当然ながら高度な技術知識を持っているが、統合型ソフトウェアモデルを利用してビジネスプロセスを実現するBusiness ByDesignの場合には、そういったスキルはさほど重視されない。SAPのレオ・アポテカー副CEOによると、Business ByDesignの導入プロセスでシステムインテグレータの介在を不要にするのが狙いだという。

 「われわれが必要としているのは、顧客のビジネスを理解しているパートナーだ。深い技術知識は必ずしも必要ではない。パートナーに求められるのは、顧客をサポートし、顧客がITを最大限に活用するための視覚化と支援を行うためのビジネス知識だ」――アポテカー氏は米eWEEKの取材でこのように語った。「Business ByDesignのリセラーはIT企業である必要はない。技術はわれわれが提供する」。

 しかしBusiness ByDesignを2010年までに1万社の新規顧客に販売する――そしてそれを実現するためのパートナーチャネルを構築する――という目標を掲げるSAPの前には、克服すべき課題も横たわっている。

 AMR Researchのアナリスト、サイモン・ジェイコブソン氏は、9月21日付の調査メモで、「CRM(カスタマーリレーションシップ管理)機能と一部の企業間取引機能を除けば、SaaSベースのERP製品の市場の将来性はまだ不透明だ。社内のすべてのデータをファイアウォールの外側で管理することに対するCIOの不安を取り除くのは、決して容易なことではない。また、発展途上のエコシステムに加わり、この新しいアプリケーションをサポートすることが実際に利益につながることをパートナーに納得させるのも容易ではないだろう」と述べている。

 「問題は、Business ByDesignのエコシステムに参加することが儲かるビジネスになることをパートナーに納得させるのが容易でないというという点だ」とジェイコブソン氏は指摘する。

 Business ByDesignは、従業員数が100〜500人の企業をターゲットとする。その狙いは、SAPの現行の2種類のミッドマーケット向け製品(SAP Business OneとSAP All-in-One)の間のギャップを埋めることにある。SAP Business Oneは従業員数100人以下の企業向けであり、SAP All-in-Oneは従業員数500人以上の企業を対象とする。

 アポテカー氏によると、SAPの既存のAll-in-Oneパートナーチャネルに加え、NetWeaver(Business ByDesignの基盤となる統合/オーケストレーションプラットフォーム)関連のチャネルや、まったく新規のソースを含むさまざまなソースからパートナーが集まる見込みだという。

 「既存のAll-in-Oneパートナーたちは、Business ByDesignをベースとした、従来とは異なるビジネスモデルに関心を示している。新たなパートナーも登場しつつある。Business ByDesignのサポートと再販に向けたビジネスモデルを実際に構築しているパートナーもある。さまざまなパートナーがこの製品に関して当社にアプローチしている」と同氏は話す。

 アポテカー氏によると、単一のチャネルではなく複数のチャネルを構築するつもりだという。「当社のインフラとコンポーネント、そして当社のソリューション構築能力を利用するパートナーにとって、これは大きなビジネスチャンスでもある。例えば、Web 2.0ベースのアドオンやウィジェットを作成したいのであれば、SAPの技術を利用し、SAP Business ByDesignでコンポーネントをつなぎ合わせればいいのだ。

 Business ByDesignをプラットフォームとして利用するという方式はおそらく、現在SAPと協業するのに慣れている技術志向のパートナー、特にNetWeaverを用いた複合型アプリケーションの構築を専門とするシステムインテグレーターにも受け入れられるだろうが、これが古いモデルから新しいモデルへのシフトであることは確かだ。

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