スパコンで加速するF1マシンの開発――ITとF1の関わりとは(1/3 ページ)

自動車レースの最高峰F1では、マシン開発からレース運営までのいたるところでITの導入が進む。コンマ1秒を争うF1の世界では高性能システムが不可欠だ。

» 2007年10月30日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 レノボ・ジャパンは、F1とITの融合をテーマしたトークセッションを開催。LenovoがF1に提供するITシステムの利用状況や、ITとF1ドライバーの関わりについて、ホンダレースチーム元監督の桜井淑敏氏、元F1ドライバーの片山右京氏、今年F1にデビューした中島一貴選手、AT&T WilliamsチームITマネジャーのクリス・テイラー氏らが出席した。

 「F1は最高峰の技術が培われる舞台。世界のファンが注目し、挑戦しがいのある場所として参画を決めた」――Lenovoは、今年からF1チームの1つAT&T WilliamsへITシステムの提供する。レノボ・ジャパン製品事業部担当執行役員の落合敏彦氏は、F1への参画についてこのように説明した。

Williamsチームで処理されるデータの総量は年間7テラバイトにもなるという。利用されるクライアント端末はすべてLenovo製品とのことだ

 Lenovoでは、同チームに対してノートPCのThinkPadを130台、デスクトップPCを270台、同社が中国で開発と製造、販売を行っているスーパーコンピュータを供給している。PCは、レースカーの開発からレース期間中のあらゆるデータ処理(コースや気象、レースカーの状態把握、セッティング、レース戦略の策定など)、日常のバックオフィス業務まで、あらゆるシーンで利用されている。

 一方、スーパーコンピュータは、同社とWilliamsチームが共同開発したもので、8月初旬に稼働した。このスーパーコンピュータは664個のコアを持ち、演算能力は最高8テラフロップス。「演算能力は稼働当時としては、世界のスーパーコンピュータの中で114位か115位に相当するものだった」(クリス・テイラー氏)。F1チームが保有するスーパーコンピュータでは、独BMWが保有するシステムが演算能力の世界ランキングで91位にランキングしているが、WilliamsチームのシステムもF1界ではトップクラスにあるという。

開発業務のプロセスを短縮

 Williamsチームは、レースカーのデザインや設計用途にスーパーコンピュータを利用する。F1のレースカーは、時速300キロメートルを超えるスピード環境でも安定した運転操作を可能にするため、「ダウンフォース」と呼ばれる空気抵抗を応用した車体を路面に押さえつける力が欠かせない。

 だが、空気抵抗を増やせばスピードが損なわれるため、レースカーには最小限のダウンフォースでスピードと車体の安定性を両立させたデザインが求められる。このデザインを決めるために、F1チームでは年間数千時間に及ぶ実車大サイズの模型を利用した風洞実験を行っている。

昔の風洞実験では設計者が模型に手を加え、レースカーの空気特性を何度も繰り返し検証した。コンピュータ化によって年々こうした手作業は少なくなりつつあるが、スパコンが本格的に利用されるようになったのはわずか数年前の出来事だ

 スーパーコンピュータでは、風洞実験の環境を仮想的に再現すると同時に、通常に風洞実験では不可能な環境(車体側面や後方からの風の影響、路面状態の変化)をシミュレーション化できる。また、PCで行われていた風洞実験の解析業務を大幅にスピードアップできるメリットもある。Williamsチームの場合、スーパーコンピュータに導入よって、風洞実験に要する時間が約4分の1に短縮された。

 テイラー氏によれば、レースカーのデザインでは風洞実験に関するものだけでも検証項目が500以上にもなるといい、かつては細かい部分の変更だけでも模型のデザインを変えながら風洞実験を繰り返していた。「今ではちょっとしたデザインの変更でもシステム上でシミュレーションできるため、開発に要する時間とコストが削減された。また、実際に部品を製造するまでの時間も大幅に短縮されている」

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