コラム
» 2008年04月17日 00時00分 UPDATE

Girl meets Hackers:ハッカーたちとの邂逅で怠惰に目覚めた“普通”の女子高専生

先日開催されたハッカーたちのイベントに、足を踏み入れてしまった1人の女性。昨年の高専プロコンで強烈な存在感を与えていた「団長」こと茨城高専の湯浅優香さんがハッカーの背中をみて感じたこととは何だったのだろうか。

[湯浅優香,ITmedia]

 3月末のある晴れた日、高専生として最後の1年をどんな風にすごそうかなとぼんやり考えていたわたし。昨年の高専プロコンでともに戦った仲間は大学への編入を考えているため、その戦いの場を受験戦争へと移しましたが、わたしは就職。ご存じの方も多いかと思いますが、高専生にとって、就職というのはそれほど高いハードルではなく、それなりにのんびりとした春を迎えています。

 学生生活最後の1年、最高に充実させたい。では何をすればよいのか――そんな思いにふけっていたわたしを現実へと呼び戻したのは、携帯電話の着信音でした。電話に出てみると、以前、わたしの人生を大きく変えた高専プロコンの記事化で縁があったITmediaの記者の方。あいさつもそこそこに携帯電話の向こうから聞こえてきたのは、「4月にハッカーの皆さんとWii Sportsを使ったオフ会をやろうと思っているのですが、参加してみませんか」というものでした。

 その意図する内容をすぐに理解できなかったわたしは、事態の把握に努めようとするのですが、「ハッカー? オフ会? しかも何故Wii Sports?」とたくさんの疑問符が頭の中でぐるぐると回っていました。突然提示されたこの話、でも、どこかあらがえないような魅力も感じる……。もしかしたらすごく面白そうな企画なのかもしれない、いや、きっとそうだ。そうに違いない。思考がそのように流れていったころを見計らったかのように、記者の方から決め手の一言が。「井上恭輔さんもお越しになります」――わたしがあこがれている天才プログラマーの井上恭輔さんも来る! 昨年津山で開催された高専プロコンでは、裏方として競技部門のシステムを正常稼働させ続け、お話しすることすらかなわなかった眼鏡の錬金術師様が来る。心臓がバクバクしていたわたしは「行きます。絶対に参加したいです」と絶叫に近い声で即答するのがやっとでした。

 そして4月12日の当日。集合場所となった都内の某駅前に、わたしは一番最初に到着し、すごいと呼ばれる方々の到着をそわそわしながら待っていました。しばらくして、向こうから子どもをだっこしながら、奥さんと一緒に歩いてくるご夫婦が。それがZIGOROuさんとわたしのファーストコンタクトでした。ハッカーというと、何だか浮世離れした方を想像していたわたしは、どうみても優しい普通のお父さんなZIGOROuさんをみて、何だか安心してしまいました。その後、続々と参加者が集まったのですが、そこで衝撃の展開が。記者の方が到着して開口一番、「井上さんが風邪で欠席と相成りました」――これを聞いたとき、井上さんとダブルスを組んで、ボールをお見合いして見つめ合ったり、井上さんの大ぶりのスイングがわたしに当たり「大丈夫?」と心配そうな表情で見つめられるとか、そんなもくろみがすべて水泡に帰しました。これだけが今回の大会で唯一無念です。

 ともあれ、十数人の大人数が小飼弾さんのお宅へと向かい、ドアを開けるとそこには小飼さん本人が。第一印象は……「写真で見た人そのままだ!」。緊張のあまり、なかなか話し掛けられなかったのですが、ごく自然体で振る舞う小飼さんに、先ほどZIGOROuさんに感じたものと同じものを感じたわたしは、「何だ、そんなに気負わなくてもいいんだ」と肩の荷が下りたように思います。

 とはいえ、到着して早々、「熟練度が2200です」「今日のためにWii買って練習してきました」「俺が負けるわけがない」などと早くも周囲との激しい心理戦を展開しながらWii Sportsの準備を始めるハッカーの方々。マイWiiリモコンを持参する方も多数で、とにかく、彼らは本気だ! ということがひしひしと伝わってきました。そう、この場は猛獣の群れであり、わたしはそこに紛れてしまった子ジカなのだ――あわててかばんから高専プロコンでも活躍してくれた団長腕章を取り出し、わたしもその心理戦に加わりました。

ハッカーにみた日本的な美

 Wii Sportsでテニスというと、通常のテニスと同様、サーブは振り下ろすように力強く、スマッシュもたたき込むように雄たけびを上げながら全身全霊を込めて打つべし、というイメージを持っていたド素人のわたしですが、それは彼らからすれば「戦場に現れた一羽の蝶を捕まえようとした兵士がそのまま敵に撃たれて絶命する」かのごとき甘っちょろいものであることに気がつくのはそう時間が掛かることではありませんでした。彼らのテニスはもっとシステマティック。「速度センサーが感知できればよい」と手首のスナップを効かせ、最小限の動きしかしないスナイパーのような彼らのたたずまいは、無駄を究極まで省いた日本的な美に近いものを感じさせました。

湯浅さん 「あーらよっと」とでも聞こえてきそうなZIGOROuさんの感じが伝わりますでしょうか。本当にくやしい

 初心者だったわたしは、初戦こそ何とか勝ち上がることができたのですが、不幸なことに次戦の対戦相手がZIGOROuさん。相対しただけで腹の底から震えが来るようなプレッシャーの中、時間にしてわずか数分でストレート負けしてしまいました。片手をポケットに入れ、ほとんど動くことがないZIGOROuさんに負けた後のわたしにできるのは、両手で怪しげな印を結びながら彼の敗北を念じることだけでしたが、しかしさすがは「サイボウズグループの覇者」。バウンドしてから変化する球など、実にいやらしい球種を思いのままに操り、スルスルと優勝されてしまいました。賞品のフォクすけぬいぐるみを手に、あたかも「お前らは1回ムエタイボクサーの蹴りをケツにでも受けて鍛え直してこい」とでもいわんばかりの男前なオーラを細胞レべルで発していたZIGOROuさんから目が離せませんでした。

小飼さん登場! 徐々に専門的な話へ

 勝負も終わり、一段落着いたところで小飼さんが登場。小飼さんが話し始めると、まるで化学反応を起こしたかのように、専門的な単語が交錯する空間へと変化しました。会話の内容は、開発環境やWebブラウザやOSなど多岐にわたり、これはよいとか、これはここが悪いとか、あのブラウザには隠しAPIが仕込まれているとか……、わたしは、すごいスピードで展開する聞いたこともない話をひたすらメモに取るのが精いっぱいでしたが、自分のこだわりを熱く話す彼らの顔には、先ほどWii Sportsをやっていたときと同様に心から楽しそうな表情が浮かんでいました。それはまるで、わたしたちが普段の学校生活で、友達と好きなことについて、和気あいあいと話す姿に似ています。

 あの場におられたハッカーの皆さんは、子どもと同じ目線でものが考えられる方々ばかりでした。西尾泰和さんは、なぜか置いてあった南京玉すだれに興味津々のご様子で、いろいろなパターンを組み上げては、「うん、なるほど」と目をキラキラさせていたのが印象的でした。また、西尾さんは、持参したボードゲーム(デザインパターンの勉強にもよさそうなゲームでした)の楽しさをとても簡潔に、かつ知的好奇心をくすぐるようなうまいいい方で教えていたりして、子どもと一緒に夢中になってゲームを楽しんでいました。純粋にWii Sportsを楽しんだり、何にでも興味を示したり、無垢(むく)な子どもと同じ目線で“楽しむ”ということを知っているのだなととても新鮮な感動を覚えました。

西尾さん 南京玉すだれからも何か真理を発見しそうな勢いの西尾さん

魔法のような力を発揮したいのなら

 今回、ハッカーの方々からさまざまな話を聞くことができました。その中で特に印象に残っているのは、「楽するために努力する」という言葉です。最終的に楽をするために、眼前の苦労も苦労と思わず突き進む。それがトータルでみたエネルギーの支出を減らす一番の方法だと理解しているからこそこうした言葉が生まれるのでしょう。

 そしてもう1つ、これだけはいっておかなければなりません(ドン! と机を叩いて)。ハッカーというと、プログラミングによって魔法のような力を発揮するイメージがあったのですが、その力の源泉には、使うだけでは飽きたらず、その背後の仕組みを知り、必要に応じてそうした仕組みすらも変えてしまおうという意識があるのだということを少し理解できたような気がします。物事を知らないことではなく、知ろうとしない自分に対して違和感を感じる人、それがハッカーの素養を持つ方なのでは、ないでしょうか。

 人は自分の見たいものしか見ない存在であるかもしれません。しかも、それを改めるのは相当に大変なことです。でも、そこに気がついているハッカーとほんのいっときでも過ごすことは、わたしだけでなく、これから新時代を担っていくであろう若いデベロッパーにとって得るところが大きいように思います。もしかすると、こうした場に参加することは、多くの読者の方の常識からすると、かなり反したものかもしれません。しかしそれでも、これを一読された後の読者の方が、そこに重大な真実を発見するかもしれない――わたしはそう信じて今回の出来事をまとめました。だからこの記事は、読者の常識へのチャレンジといってもよいでしょう。

 見ないものは存在しないことと同義ではありません。むしろ、見ようとしないものにこそ、多くの気づきが潜んでいます。こうした場へ参加することによってそれが気づけたことを考えると、テニスでの負けなどは、大事の前の小事といったところです。高専プロコンに参加したときも感じた「未知の領域に飛び込んでいくことの楽しさ」が少しでも皆さまに伝わればうれしいですし、これをみて「よし、次回は参加してみよう」と思っていただければうれしいです。

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