解釈の誤り? 孫子に学ぶ危機管理の在り方とはRSA Conference Japan 2008(1/2 ページ)

経営哲学で語られることの多い古代中国の兵法家・孫子。だが、日本人は解釈を誤り、特に危機管理では世界の意識と大きく乖離(かいり)しているという。

» 2008年04月23日 20時42分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 RSA Conference Japan 2008が4月23日から2日間開催されている。初日の基調講演には、危機管理総合研究所の小川和久代表が登壇。危機管理対策における日本と世界の意識の違い、また情報セキュリティ対策への心構えについて、古代中国の兵法家・孫子の言葉を引用しながら解説した。

小川氏

 「孫子の思考は、時代・場所を越えて通用する論理的思考。しかし、日本人は十分に理解してこなかった」――冒頭、小川氏はこのように述べた。

 例として、小川氏は「彼を知り、己を知れば、百戦殆からず」「戦わずして勝つ」という孫子の言葉を引用した。「日本人は“彼を知り、己を知れば、百戦殆からず”という言葉を信じ続けてきたが、実はこれに続く“彼を知らずして、己を知れば一勝一負す”という言葉の方が世界の常識だ」(小川氏)

 小川氏は、日本人の危機管理は「対外(彼)」と「対内(己)」の双方を理解しなければ成立しないという意識が根強くあると指摘する。「実は、身の内を知るだけでも危機管理の半分は成立する」と小川氏。100%理想を追求するのではなく、まずは自己周辺を理解することが世界共通の危機管理意識だとしている。

 また、「戦わずして勝つ」という言葉では、「日本人は言葉の本質を十分に理解していない」と小川氏。同氏は、「不毛な争いは憎しみを生むだけで、危機の本質を解消するものではない。むしろ相手に圧倒して勝利し、均衡の取れた関係を築くことが重要だ」と話した。その実践例が米国の外交だという。

「安全」と「繁栄」の意味が理解できない

 「日本人は目標達成のロードマップが描けないといわれる。国内の閉ざされた競争環境が原因のようだ」(小川氏)

 小川氏は「経済活動では、成長のためには国家、そして世界が平和であることが条件」と述べる一方、「企業はこの基本的理解が十分ではない」と述べた。

 「テロとの戦いでは自衛隊を行かせる、行かせないとの議論に終始する。なぜ武装した人間が戦地で社会貢献に努めるのか。殺害や傷害を多発する場所に丸腰の民間人であるあなたが行きますかと問えば、すべての人が“無理だ”と答える」(小川氏)

 日常生活の繁栄の根底にあるのは、国家や世界レベルの平和だと小川氏は指摘。「生活が困窮する場所でテロや戦争が起きる。まずこの環境を改善し、暴力という負の連鎖を断つという予防医学的な取り組みが世界の危機管理意識の表れだ。イラク復興支援の本質もここにある」と述べた。

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