脆弱性指摘されるアジアのネットワークを強化――ベライゾン ビジネスの戦略key person(1/2 ページ)

世界の中で地震頻発地域とされるアジア方面のネットワークの強化は、多国籍企業にとって重要な課題。ワールドワイドの高速ネットワーク構築に取り組むベライゾン ビジネスは、アジア・太平洋地域へのネットワークの強化を進めている。

» 2008年07月04日 10時14分 公開
[小松崎毅,ITmedia]

北京オリンピック開催をにらむ

 ベライゾン ビジネスは、ワールドワイドの高速ネットワークを構築し、主に企業や政府機関などを対象にサービスを提供。現在6大陸、約150カ国で事業展開し、世界の上位企業である『フォーチュン・グローバル500社』のうちの実に97%を顧客として抱えている。今回、来日した戦略および財務担当バイスプレジデント、ジョン・ドハティ氏に、同社の現状と主にアジア方面の事業展開について聞いた。

 現在、同社が特に注目するのは多国籍企業。現在3カ国以上で業務展開し、従業員750名以上、売り上げが1億ドルを超える企業は5200社を超えるという。近年、著しい成長を遂げるインドや中国などアジア方面に注目する多国籍企業は多い。これらの企業がどの国に拠点を置いても等しく遅延のない、信頼度の高いネットワークを提供することが同社の使命であるとし、保有する高速ネットワークの優位性を最大限に生かした戦略を練っている。

「中国のキャパシティはさらに拡大する」と語るジョン・ドハティ氏

 その1つがTPE(Trans Pacific Express/トランス・パシフィック・エクスプレス)というプロジェクト。アメリカと中国を光ファイバーの海底ケーブルで接続するもので、全長18000キロに及ぶ。キャパシティや速度は格段に優れ、従来のケーブルの60倍超である6200万の同時通話を処理できる能力を持っている。既存ケーブルとの共存で経路の冗長性を確保する狙いもある。

 「中国はこれからさらに注目される国。それだけに今以上のキャパシティが必要になります。我々はチャイナ・テレコムと共同で新しい通信経路を確保し、ニーズに応える準備をしています」とドハティ氏。米中間のTPEは2008年7月、北京オリンピックの前に運用がスタートする予定だ。

地震災害での障害も教訓

 同時に、他企業との共同でヨーロッパ、中東、インドを結ぶ海底ケーブル(ヨーロッパ/インドゲートウェイ)の敷設事業も展開。こちらは全長15000キロで最大通信速度は毎秒3.84テラビット。従来のネットワークと併用したインド、ヨーロッパ間の迂回経路という位置づけになる。同社はインドで高速通信サービスを提供する認可を受けており、ムンバイ、バンガロール、ニューデリーなど主要都市のネットワーク構築を計画している。ヨーロッパ/インドゲートウェイと併せて、インド国内の多国籍企業や欧米からインドへ進出する企業の戦略を実現する橋渡し役として期待される。

 このようなアジア・太平洋地域へのネットワークを強化している理由はもちろん近年の中国やインドの急激な経済成長にあるが、もう1つの理由は2006年の台湾沖地震の反省から。12月に台湾で発生したマグニチュード6.7の地震の影響で海底ケーブルが切断され、中国や韓国、日本などにおいて数週間の通信障害が発生した。このトラブルはグローバルなネットワーク戦略を担う通信業界に、アジア方面のネットワークの脆弱性を思い知らされる結果となった。この反省を踏まえて、同社では欧米を中心に展開していた「メッシュ・ネットワーク」の拡大を図った。これは7方向のネットワークを全世界に編み目のように張り巡らし、部分的に切断されたりその他の障害が発生しても、他のルートを迂回して遅延のない同品質の通信を継続することができる仕組みだ。これによりネットワークの冗長性が確保された。

 「もしまた中国や台湾でトラブルが発生しネットワークが切断されたとしても、今ならインド経由で地中海のルートに流したり、太平洋方面のルートに引き継がせたりすることはできます。それだけの環境が整備されています」とドハティ氏は語る。2008年5月の四川大地震においてもネットワーク切断の報告はなく、地震が頻発する環太平洋地域へのフォローは確実に進んでいる。

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