NASA、オーロラ観測にITを活用オーロラ研究に新たな視点

米航空宇宙局(NASA)のTHEMISプロジェクトは、ITと衛星技術を統合して最先端の宇宙観測を行い、極光と呼ばれるオーロラの発生メカニズムの研究に新たな視点を提供するものだ。

» 2008年08月01日 16時24分 公開
[Chris Preimesberger,eWEEK]
eWEEK

 米航空宇宙局(NASA)のTHEMISプロジェクトは、ITと衛星技術を統合して最先端の宇宙観測を行い、極光と呼ばれるオーロラの発生メカニズムの研究に新たな視点を提供するものだ。このプロジェクトはまた、太陽が放出する大量の荷電粒子の嵐が通信衛星や地上の送電網に及ぼす影響を研究することにも役立っている。

 NASAはオーロラの発生メカニズムを探るために、気象衛星ネットワークとグローバル通信、そしてさまざまなIT技術を組み合わせ、大規模な宇宙気象観測システムを構築した。

 このプロジェクトは純粋な宇宙研究としての成果を挙げつつあるが、同時に実用的な価値も生み出している。不気味なほど美しい発光現象を引き起こす太陽風の予報を可能にしたのだ。

 THEMIS(Time History of Events and Macroscale Interactions During Substorms)プロジェクトの主目的は、宇宙気象の研究だ。NASAの科学者たちは7月24日、極光がきらめく仕組みを解明した、とScience Magazine誌に発表した。

 一般にオーロラと呼ばれる極光現象は、太陽表面から飛来する高エネルギーの荷電粒子によって引き起こされる。この荷電粒子は、宇宙空間を飛ぶ人工衛星にダメージを与え、地上の送電網を過負荷でダウンさせてしまうことさえある。

 人工衛星がダメージを受けると、電話通信に影響するほか、テレビ放送の電波障害が発生したり、自動車のナビゲーションに利用されるGPSシステムが機能しなくなるなど、地上でさまざまな問題が生じる。

 THEMISが収集した最近のデータから、オーロラのきらめきは、磁気リコネクションというプロセスの中でちょうど伸びきったゴムバンドがリリースされたときのように、磁力線に“蓄積された”エネルギーが一気に解放されたときに発現することが分かった。こうした現象がなぜ起きるのか、それがなぜ電波に影響するのか、研究者たちはプロジェクトの核心の問題として引き続き解明に努めている。

 THEMISプロジェクトの狙いは、こうした新しい情報を手がかりに、磁気圏サブストームのモデリングや予測の精度を高め、政府、企業があらかじめ電波障害などの対策を講じられるようにすることだ。

 「オーロラは大気圏障害を引き起こすサブストームの可視的現象といえる」と語るのは、NASAゴダード宇宙飛行センターのTHEMISプロジェクト・サイエンティスト、デビッド・シベック氏だ。「磁力線は太陽風のエネルギーを吸収、蓄積しながら、宇宙空間に伸びていく」

 そして「磁力線に蓄積されたエネルギーが磁気リコネクションによって解放されると、地球の大気に荷電粒子が引き戻され、そのとき北極と南極に光り輝くオーロラのハローが出現する」と同氏は説明する。

 地上で眺める限り、オーロラは確かに美しい。だが重要なのは、そうした電離層での変化が、地上に深刻な影響をもたらすことだ。とくにわれわれが大きく依存する衛星通信への影響は重大である。実際、高周波無線通信の混乱は、世界中の航空機パイロットにとってシリアスな問題だ。

 しかし、オーロラと通信障害に関連性があることは、証明されたのだろうか? もしそうなら、電波はどのような影響を受けるのだろう?

 「大規模なストームが発生すると、フロリダあたりからでもオーロラを観測することができる。そうした巨大ストームの中に、数多くのサブストームが存在する」と説明するのは、UCLA教員でTHEMISプロジェクトのスーパーバイザー、ヴァッシリス・アンジェロポウロス氏だ。「それらが通信障害を引き起こすことや、短波の無線通信、GPSの精度に影響を及ぼすことはよく知られている。電波を反射、伝送する電離層が、宇宙空間の荷電粒子にシビアに反応するためだ」

プロジェクトには5基の衛星

 NASAが2007年2月に打ち上げた5基の特殊な観測衛星は、現在、THEMISとして地球の衛星軌道を周回している。そしてそれぞれの衛星は連携しながら、ダンスのように美しいオーロラのきらめきが人々の生活にどう影響するか研究するための観測データを送り続けている。

 これらの衛星はアラスカとカナダにある特殊な設備が導入された20の宇宙観測所を経由して、専用線で相互リンクされている。そして5基の衛星は、4日ごとに赤道に沿って一直線に並び、いつどこでどのようにサブストームが生成されるかを示す観測データを収集している。

 各衛星は洗練された中継局でもあり、観測所の写真データや動画データをカリフォルニア大学バークレー校のTHEMIS本部へ転送する役割も担う。また障害復旧やバックアップ時には、それらのイメージをメリーランド州のゴダード宇宙飛行センターへ転送する仕組みだ。

 「われわれは、オーロラの発生時に地球の磁場が変動していることを発見した」とシベック氏は語る。「磁場が不安定化するとオーロラが発生する。われわれは、そうした不安定化がどういうものかを知りたいと考えている。衛星が1つだけでは、それらを観測することができなかった。いつどこでなにが起きているか特定するためには、衛星が1基だけでは不十分だった」と同氏。

 カナダとアラスカにある観測所は、4日ごとに全天空撮影が可能な場所にある。それらの観測所で魚眼レンズを用いて3秒ごとに撮影した写真や動画は、特定の衛星に集約し、バークレーやメリーランドのデータセンターに転送して処理、蓄積される。

 「われわれは現在、4つのミッションを遂行するために8基の衛星を運用しているが、そのうちの5基でオーロラ研究を行っている」と語るのは、バークレーのTHEMISミッションコントロールディレクター、マンフレッド・ベスター氏だ。「撮影した膨大な量の動画や画像は、直ちにオフィシャルサイトで公開され、一般の人もすぐに見られるようになっている」

NASAのオープンデータポリシー

 それは「すべてのデータをパブリックドメインで共有する」というNASAの比較的新しい“オープンデータ”ポリシーによって実現した、とベスター氏は強調する。冷戦時代と比べれば、まさに劇的な変化だ。当時、あらゆる科学情報は神聖な場所に保管され、いわゆる鉄のカーテンの向こう側の国々では利用することができなかった。

 「今日では、ほとんどすべてのデータセットをオフィシャルサイトから入手できる」とベスター氏。「むしろ、われわれはデータの奔流を制御しなければならないほどで、状況は昔より複雑になっている。もし誰かがわれわれのデータを分析したいというなら、両手を広げて歓迎したい」

 ベスター氏によると、THEMISプロジェクトでは5基の衛星から送られてくる膨大な量のデータをハンドリングするため、Silicon Mechanicsが開発したLinuxベースの専用ストレージアレイとデータサーバを導入している。「1日に処理するフィルムや写真の量は40ギガバイトに達する」(アンジェロポウロス氏)という。

 そうした膨大なデータの転送に特殊なソフトウェアは利用していない。ベスター氏の説明によると、SGIやそのほかのベンダーが提供する標準的なソフトウェアを利用し、インターネット経由でやり取りしているという。

 「ただし、われわれはデータを一般公開するために特殊なツールを利用している」とベスター氏。「オフィシャルサイトの公開情報は、科学者たちが毎日見ているデータの概要だ。一般公開のために大幅にコンパイルしている」

宇宙気象を理解する

 アンジェロポウロス氏によると、宇宙気象の研究は世界中の国々の政府から大きな注目を集めているという。

 「宇宙気象について、われわれはようやく理解しはじめた段階だ。いまから100年前、大気圏の気象を理解しはじめたばかりのときのように」とアンジェロポウロス氏。「当時、科学者たちは気象観測所を利用して嵐を追跡した。同じように今日、われわれは気象衛星を使って宇宙の嵐を追跡している」

 そして同氏はこう続ける。「THEMISは気象衛星の新時代を切り開いた。われわれは宇宙の“前線”を追いかけ、ついにサブストームの発生原因を突き止めた。こうした研究の成果は今後、宇宙気象のモデリングや予報の精度を向上させるツールの開発に大きな配当をもたらすだろう」

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