“IBM標準”を崩さない統合戦略が肝――ラブジョイ氏IBM Security Summit 2008

IBMはセキュリティ分野への進出強化に当たっていくつかの企業買収を実施した。質実剛健な“IBM”らしさを失わずに、手にした技術や製品、ノウハウ、人的リソースをどのように統合させていくのだろうか。

» 2008年10月06日 09時15分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 近年のIT業界は幾多の企業買収や合併が繰り返し行われてきたが、異なる企業で成長し続けてきた製品や技術、人材などを新たな環境に統合することは容易ではない。セキュリティ分野への進出を表明した米IBMもさまざまな企業買収を実施したが、手にしたこれらの資産を同分野の成功に結びつけることができるのだろうか。同社のセキュリティ戦略担当ディレクター、クリス・ラブジョイ氏に買収戦略や製品統合の方針を聞いた。

 IBMでは企業買収を実施するに当たって、どのような点を重視しているのでしょうか?

ラブジョイ氏 われわれがこうした買収などの行動を実行するのは、顧客が新たなソリューションを望むタイミングです。その際に自社で開発したほうがいいか、市場に優れた企業と手を結んだ方がいいかを考え、迅速に対応できる手段を選びます。

ラブジョイ氏

 企業を買収する場合、手にする資産がわれわれの顧客が求める製品、サービスとして適切なものとして提供していくことができるかを重視します。そのためには、単に買収対象となる技術や製品、機能だけに注目するのではなく、企業風土や経営環境といった文化も慎重に見極めています。

 例えば2007年に買収したConsul Risk Managementの場合、グループウェアのLotus Notesを20年以上使い続けるなど企業風土がIBMと非常に似ており、両社共通のパートナーも数多く存在していました。

 買収や合併では製品統合がうまくいかないケースが数多く見受けられます。自社のブランドを維持しながら新たな技術や製品を組み込むことは容易ではないようですが?

ラブジョイ氏 われわれはIBMとしての“標準”と“アーテクチャ”を非常に重視しており、買収対象がIBMの企業環境へスムーズかつ迅速に統合させるかを最重要視します。

 特に買収した技術については、最初に社内で“Blue Wash”と呼んでいる解析作業を実施します。Blue Washではソースコードの内容を詳細に把握し、IBMの製品として提供するために必要な品質が確保されているかどうか、また、具体的にどのような部分を既存製品と統合していけるのかどうかを徹底的に分析します。

 買収を実施する場合は、Blue Washに多大な手間がかかるかどうかも重視しますね。Consul買収では対象とした技術がTivoliのストレージ管理ソリューション「Tivoli Storage Manager」に近いものでしたのでしたので、統合プロセスは難しくありませんでした。

 IBMとして、このタイミングでセキュリティへの取り組みをなぜ打ち出したのですか?

ラブジョイ氏 顧客のシステム環境や使われる機器の環境がますます複雑になり、システムを提供する立場として包括的なセキュリティソリューションを提供する必要性が高まっています。われわれとしては、この状況を受けてセキュリティの側面からも顧客企業を世界規模で支援できるということを伝えていく必要がありました。

 セキュリティ分野と一口に言っても非常に範囲が広いのですが、具体的にどのような領域に注力するのでしょうか?

ラブジョイ氏 大きく9つの領域にフォーカスしていきます。9つの領域とは、「仮想化環境」「多様なセキュリティ手段の提供」「リスクおよびコンプライアンス管理」「信用された個人情報」「情報セキュリティ」「アプリケーションのセキュリティ予測」「包括的なネットワークセキュリティ」「モバイル機器のセキュリティ」「物理的なセキュリティによる監視対応」というものです。

 特に、仮想化環境やネットワーク環境におけるセキュリティの強化や個人情報、アプリケーションの信頼性といったテーマは、非常に重要な領域に位置付けています。

 セキュリティ分野に今年度15億ドル(約1600億円)を投資するとのことですが。

ラブジョイ氏 詳細な内訳は公開できませんが、製品開発や営業、マーケティングだけでなく、将来の製品やソリューションにつながる基礎技術の研究にも投資していく計画です。われわれは従来以上にセキュリティ分野へ積極的に取り組む方針です。

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