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日曜日の歴史探検:無人戦闘攻撃機「X-47B」にゴーストは宿るか

無人の戦闘攻撃機は人的被害を減らすことに貢献しますが、泥沼にはまる危険も備えています。今回は、無人戦闘攻撃機「X-47B」が登場した経緯とその影響について考えてみたいと思います。


X-47B X-47B(出典:Northrop Grumman)

 のっけから私事ですが、わたしが今年見たアニメで「マクロスF」というものがあります。この中で「ゴーストV9」と呼ばれる無人戦闘攻撃機(UCAV)が残像しか視認できないほどの速さで猛威を振うシーンがありました。調べてみるとこの物語は2059年のものということですが、わたしたちは同じような未来をもっと早く体験するかもしれません。今回はそんな無人戦闘機のお話です。

 12月16日、Northrop Grummanから「X-47B」についてのアナウンスが出されました。X-47Bとは米国海軍が開発している無人戦闘攻撃機で、以前紹介した米国の実験機・記録機シリーズ「Xプレーン」に属しています。2009年には初飛行が予定されているX47-Bですが、この開発の主契約社がNorthrop Grummanであり、その最新情報が公開されたわけです。

tnfig1.jpgtnfig2.jpg X-47B。装備にはレーザー光線と高出力マイクロ波(HPM)も搭載予定とされています(出典:Northrop Grumman)

 そもそも戦闘攻撃機が無人だと、どのようなメリットがあるのでしょうか。例えばWikipediaでは特徴として以下のようなものが挙げられています。

  • 生命維持装置が不要なため、その分の重量・スペースを燃料やペイロードに当てることができる。あるいは、軽量・小型にできる
  • 戦闘や事故により機体が破損・墜落しても人的被害が出ない。そのためSEAD(敵防空網制圧)、すなわちレーダーサイト攻撃任務に適すると考えられている
  • 無人機には人間(パイロット)が乗っておらず、荷重倍数(いわゆるG)の制限は機体のみに依存するため、通常の有人飛行機では困難なアクロバティックな飛行が可能。また、パイロットに休息を与える必要がなく燃料が続く限りいつまででも飛行を行うことも可能となる

 このうち、人的被害が出ないというのが無人戦闘攻撃機を語る上で欠かせない要素ですが、それを実現するためには幾つも解決すべき課題が存在していました。例えば、操縦をどのように制御するのか、また、自律的に判断して動くためのフレームをどのように定義していくかなど、これまで人間が行っていたことを代替するための方法に開発者たちは頭を悩ませてきたのです。しかし、技術の進化がこれらの多くを解決してきています。X47-Bであれば、無線操縦とGPS航法装置を併用し、さらに衛星通信装置なども備えて自律的な飛行を実現しています。とはいえ、人間が判断していた部分を完全に置き換えるには至っていないので、近接戦闘では簡単に負けてしまうでしょう。

海軍がUCAVの開発を主導した経緯

 ここまで読んで、勘の鋭い方なら、「Northrop GrummanのライバルであるLockheed MartinやBoeingは何をしているのか」と感じたかもしれません。Lockheed Martinは“ラプター”ことF-22やF-35 ライトニングIIといった最新の有人戦闘攻撃機にかなりのリソースを割いていたため、無人戦闘攻撃機にはさほど関心がないようですが、Boeingは無人戦闘攻撃機を開発していました。それが「X-45」です。

X-45 Boeingが開発していたUCAV「X-45」(出典:DARPA)

 無人“戦闘”攻撃機の開発計画は、1996年に国防省防衛高等研究計画局(DARPA)が米国空軍と共同で開始した「UCAV-AF」に端を発しています。このとき製造・開発契約を結んだのはBoeingでした。Boeingは、1997年にMcDonnell Douglasという航空機製造企業を吸収合併しましたが、このMcDonnell Douglasは「X-36」という無人の無尾翼戦闘機機動研究機を開発していた企業です。BoeingはMcDonnell Douglasを吸収したことでX-36の開発ノウハウを得、それを再びX-45として売り込んだといえます。

 面白いのは、X-45は米国空軍が、X-47は米国海軍が中心となってプロジェクトを進めている点です。前記のとおり、UCAV-AFは空軍の意向が強いものだったのですが、海軍でも空母の甲板から離着艦可能で、かつ戦略上必要な要素などを盛り込んだ無人攻撃戦闘機の開発を「UCAV-N」計画として同時期に開始しています。つまり、無人攻撃戦闘機という同じ目標でありながら、米国では2つに分かれて開発が進められることになったのです。

 これでは無駄が多いため、2003年には2つの開発計画がJ-UCASとして1つに再編されますが、もともと空軍と海軍で無人攻撃戦闘機に求める能力が異なるわけですから、うまくいくはずがありません。そうこうしているうちに、米国空軍は重爆撃機に興味を移し、J-UCAS計画は空中分解しました。

 これ以降、米国における無人戦闘攻撃機の開発は海軍主導の下で進められています。BoeingはJ-UCAS計画の破たん後、すぐに海軍にX-45を売り込みに走りましたが、それもかなわず、2006年3月にはX-45の開発中止がアナウンスされました。無人戦闘攻撃機の開発は予算見直しの時期にさしかかっているなどの問題もあり、X-47が今後も開発を続けられるかは不明なところもありますが、現在の無人戦闘攻撃機開発計画の鍵はNorthrop Grummanが握っているといえるでしょう。米海軍はステルス機の導入が遅れていることもあり、高いステルス性を備えたX-47の配備にはかなり期待を寄せています。

 こうした最先端の機体はどういった技術で制御されているのでしょう。調べてみると、2008年8月に、Wind Riverの「Wind River VxWorks 653」がX-47Bのデバイスソフトウェア開発用プラットフォームとして採用されたと発表されています。

 航空、軍事産業に限らず、巨大なシステムでは、多くのシステムが統合された形で機能することが多いのは皆さんご存じだと思います。軍事産業のような機密性の高い産業だと標準的な規格がなかなか決まりにくい下地がありますが、これでは開発効率が悪いのは明白です。このため、航空電子工学の業界標準規格であるARINC 600系のArinc-653基準で統一的に設計される流れが進み今に至るのですが、Arinc-653に準拠していることもあり、この業界でのVxWorksの支持率は高いものがあります。少し前では火星探査機「マーズ・エクスプロレーション・ローバ」で用いられたOSもVxWORKSでしたし、最近ですと、仏国で開発が続けられている無人戦闘攻撃機「nEUROn」にもVxWORKSが用いられています。ちなみに、nEUROnはDassault Aviationが主契約社で、2010年の初飛行を目指して開発が進められています。

 ミルグラム実験という有名な心理実験では、多くの人々は権威の前には従うことが示されています。「上官の命令なら」という感じで作戦は実行されるわけです。しかし、従来はそこに人的被害が発生するかもしれないというリスクが存在していたため、これが抑止力として機能していた面もありました。無人戦闘攻撃機の登場は、後者のリスクをなくしてしまうわけですので、大胆な作戦が増えることが予想され得るわけです。機械にも人間のように魂が宿るのかをテーマとする押井守監督の作品などもありますが、同じような議論がX-47Bに対して行われる日は案外近いかもしれません。

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