モデルの違う組織から学べることIT Oasis(1/2 ページ)

自治体と民間企業は組織の成り立ちからも全く異なるものとしてとらえられがちだ。しかし、自治体の状況を観察することで、改革のポイントを客観的に把握できることもある。

» 2009年01月22日 14時20分 公開
[齋藤順一,ITmedia]

自治体のビジネスモデル

 CIOを導入する自治体が増えてきている。しかし、CIOの役割がIT投資のコストカッターとしてしか活用されていないようなケースも見受けられる。CIOの責務としてIT投資経費のX%減といった目標を掲げている自治体もあるようだ。

 自治体に必要なのは自治体経営に資するIT戦略を企画、実現するCIOとそれを支える組織であろう。

 民間企業のビジネスモデルにおける目標はゴーイング・コンサーン(継続企業)である。顧客をはじめとするステイクホルダーが要求する限りは社会に留まり、商品やサービスを提供し続けることがミッションである。そのためには収益をあげ顧客満足度を向上させることが目標となる。

 自治体のモデルには収益が入らない。自治体は住民の負託に応えるサービスを提供する。住民はサービスを受けるために税金を支払う。税金を徴収する仕組みは構築されたが、住民に対するサービスレベルについての合意を適切に行う仕組み構築しきれていない。つまりSLAが締結されていないのである。

 このため何が目的かということが判然としないことが多発するケースがある。

 住民の方もサービスについて合意した覚えがないことが多いので、不満が爆発することもある。行政に全く無関心な人がいるかと思えば、やたらと「キレる市民」もいる。自治体職員はこうしたモンスターシチズンに怯え、住民サービスに過度に神経質になったり、住民からの少数意見に過剰反応したり、委縮してしまっているケースもある。

 住民からの反応を心配するあまりか、新しい試みに挑戦するより、現状維持を選ぶという保守的な傾向も見られる。

 これに似たようなことは民間企業でも起こる。さまざまな顧客の都合を考慮しすぎて、いつも新しい試みが中途半端に終わったり、何もできないでいるケースもある。いつのまにか顧客へのサービスの目的が、不明瞭になってしまうこともあるだろう。

競争のない自治体

 自治体は地域独占事業である。競争がないため変革が滞りがちである。自治体に競争を持ち込むため内閣府の規制改革・民間開放推進会議において市場化テスト(官民競争入札)が議論され、平成18年2月に「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案」が可決された。

 例えば、戸籍法等の特例として戸籍法等に基づく戸籍謄本等の交付の請求の受付及びその引渡し等の業務を民間事業者も行えるように措置することが決められている。

 しかし、戸籍法では戸籍の扱いは特定の人が携わることを求めており、自治体職員といえども戸籍担当者以外の業務はできないことになっており、民間が参入できたとしても、入りと出の部分だけに留まる。

 こうした法律の制約によって組織は縦割りになる。戸籍であれば総務省−総務局-戸籍課−窓口係という縦のつながり、年金であれば厚労省−市民局−年金課という縦つながりが優勢になる。

 情報は横方向のつながりも重要である。例えば窓口業務は市民から見れば全ての申請や相談を1人の担当者が片付けてくれるワンストップ窓口サービスが理想である。戸籍だろうと、年金だろうと、児童福祉だろうと一緒の窓口で受けつけてくれるのが望ましい。

 しかし内部に存在する縦の壁のために窓口同士の連携も難しいことが多い。

 また、縦方向のつながりが強固であるため情報共有といった横方向の情報化の財源をどこが負担するのかという問題もある。縦割りのため、プロジェクトの適当なとりまとめ部署がないということもある。

 これも営利を追求する多くの民間企業で起こっていることだ。組織内の縦割り化が進み過ぎているのに、それが当然のルールとして認識されてしまい、顧客の不都合に気付くことができない。気づいていたとしても、そうした縦割りを改める前に社内の抵抗勢力の存在を意識して誰も提案できないでいる、といったことだ。

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