サービスマネジメントの新しい「鼓動」

クラウドの世界にサービスマネジメントを実装するTivoliIBM Pulse 2009 Report

ラスベガスで開幕したIBM Pulse 2009。サービスマネジメントについて、都市の特徴にちなみギャンブル的な手法を提示する……わけではなく世界戦略に基づいた緻密なメソッドが示された。それはサービスマネジメントの産業化という従来のビジョンから一歩進んだ、動的なインフラ管理である。

» 2009年02月11日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 ネバダ州ラスベガス――日本人の多くに「カジノの街」として知られるこの場所で、米国時間の2月9日、IBMソフトウェア「Tivoli」ブランドとして2度目となるイベント「Pulse 2009」が開幕した。会場となったMGMホテルのGrand Garden ARENAは、普段から有名ミュージシャンのコンサートやボクシングの試合などが行われる大型の室内ホール(Pulseの終了後、ビリー・ジョエルのコンサートが行われる予定)だ。すり鉢型の座席を埋め尽くした参加者の歓声にこたえるよう、昨年に引き続き基調講演のスピーカーを務めるアル・ゾラ Tivoliゼネラルマネジャーがステージに駆け上がった。

会場 プレス席より会場を望む。もはや単なるITのイベントを超える規模だ――

企業にはびこる「サイロ」を破壊するのは、あなただ

 「食品、電力、医療といった産業を担う企業の多くが、情報の共有、業務の共有、リソースの共有を図りつつもうまくいかない。その原因は何か?」とゾラ氏は聴衆へ問いかける。「答えははっきりしている。情報のサイロ(縦割り)化だ」(ゾラ氏)

 組織がサイロ化し、人材がサイロ化し、結果、情報を含む企業資産全体がサイロ化している現状があるとゾラ氏は指摘する。解決するには、まずサイロ化した各ビジネスユニットを標準化する必要があるという。「標準化」といっても、さまざまなアプローチが考えられえるだろう。今回Pulse2009を通じIBMが提案するメソッドが、「ダイナミックインフラストラクチャ」である。

Tivoliゼネラルマネジャー アル・ゾラ氏

 ダイナミックインフラストラクチャは、先日IBMがワールドワイドなメッセージとして発信した、ビジネスや社会、ひいては地球に進化をもたらすことを図る次代のコーポレートビジョン「Smarter Planet」を構成するメインコンセプト(ほか3つは、New Intelligence、Smart Work、そしてGreen&Beyond)である。IBMでは「ユーザーとなる企業が、コストを抑え、セキュアで、ビジネス環境の変化にも迅速に対応できる、インテリジェントなインフラ構築を支援する」と定義している。

 ダイナミックインフラストラクチャがカバーする領域は、仮想化/クラウド、サービス/アセット管理、セキュリティ、電力効率化、事業継続、情報管理基盤となる。国内でも空冷設備など非IT資産を包含したデータセンター統合などへの取り組みが注目されているが、まさにTivoli、そしてMaximoが得意とするソリューション分野といえる。

 ゾラ氏によると、この新しいインフラストラクチャにおいては、以下の3つのキー要素があるという。そしてこれらの達成を図ることがすなわち、上で挙げられた「サイロ化」を打破するきっかけになると解く。「企業にはびこるサイロを破壊するのは、いまこの場にいるあなた方だ」(ゾラ氏)

  1. デジタル資産と非デジタル資産の統合管理
  2. (データの増大に伴う)情報コストの抑制
  3. 業務/サービスレベル悪化の抑制

 では、サイロが打破され、ダイナミックに管理されたインフラの実例には、どのようなものがあるのだろう?

クラウドは「ITの世界に閉じた概念」ではない

Tivoliクライアントが導入されたフィールドスタッフ用PDA Tivoliクライアントが実装されたフィールドスタッフ用PDA

 会場では電力会社を例に取りデモが行われた。

 一般に電力会社からは、発電状況、あるいは電力の消費状況に関わらず、常に一定の電力が各供給先に送電されているという。これは例えれば「食べもしないピザが勝手に宅配されており、食べきれなかった分は捨ててしまう」という状況だという。地球規模での二酸化炭素の抑制が叫ばれる中、いかにも効率が悪い。

 また通常、送電を受ける各家庭(あるいは法人)には、電気の使用量を計測する「電力メーター」が設置されている。まず、この従来式アナログメーターを、デジタル化された「スマートメーター」に切り替えることで、電力会社は各送電先からリアルタイムに電力の消費状況を把握できるという。

 スマートメーターおよび電力会社の設備全体を、Tivoliから運用監視すれば、電力の需給を常にモニタリングし、送電量を動的にコントロールできる。不意の天災などで電線などに損害が出た場合でも、監視コンソールからドリルダウンして、問題が発生した非IT設備を特定可能だ。フィールドスタッフに、Tivoliクライアント(Service Request Manager)が導入されたPDA端末を支給することで、監視センターから効率よく修理を手配できる。修理完了するまでの間は、ほかの設備に送電量を再分配したり、各送電先のへの送電量を一時的に減少させることで、障害の最小化を図る。

 こういった「ダイナミックなインフラ管理」は、IT資産/非IT資産を問わない統合管理を志向し続けたTivoliだからこそできる芸当であり、他ベンダーには存在しないIBMオンリーのソリューションであるという。このデモとほぼ同等の仕組みをテキサス州ヒューストンの電力会社CenterPoint Energy社(その送電ネットワークは、地球2周分におよぶという)が採用しており、発/送電の動的なコントロール、障害の最小化およびそれにともなうサービスレベル向上、そして全社的な運用コストの削減を達成したと紹介された。

実際に使われている「スマートメーター」(写真=左)、収集した情報は、Tivoliのコンソールから集中管理。送電量を動的にコントロールする(写真=中)、送電塔のような非IT資産に障害が発生した際も、Tivoliから検知、特定できる。ここからフィールドスタッフに修理活動を指令する(写真=右、すべてクリックで拡大)

 デモを担当したTivoli開発担当バイスプレジデント ローラ・サンダース氏は「ダイナミックインフラのもとでは、クラウドはITの中に閉じた概念ではない」と話す。「エンドユーザーが求めているのは、ITではなくサービス。クラウドの手法を非ITのフィールドサービスや資産管理にまで適用するのが、Tivoliのダイナミックインフラストラクチャだ」(サンダース氏)

クラウドはITの中に閉じた概念ではない クラウドはITの中に閉じた概念ではない

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