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» 2009年02月16日 04時00分 UPDATE

鉄腕アトムを創り出すのはほかの誰でもないあなた――MSとベネッセが学生に贈った「新・ロボコン」

マイクロソフトとベネッセがロボットを題材に理数系人材の育成に努めている。先日行われたロボットコンテストは、そこに参加したすべての人に「教育とは何か?」「ものづくりの価値とは何か?」を考えさせた貴重な場となった。

[西尾泰三,ITmedia]

 「皆さんはどんなロボットを作りたいか。それを考えながら数十年後の自分を想像してみてほしい。」――皆さんはこう問いかけられて、何を思うだろうか。少なくとも、2月15日に東京の鴎友学園女子中学高等学校で開催されたロボットコンテストでベネッセコーポレーション(ベネッセ)執行役員補の福本眞也氏が語ったこの言葉は、来場者それぞれに響く言葉となった。

福本眞也氏 ベネッセコーポレーション執行役員補の福本眞也氏

 ロボットコンテストといっても、一般に「ロボコン」などと呼ばれて知られている「高専ロボコン」ではない。この大会は、マイクロソフトとベネッセが理数系人材育成の促進に向け、体験型プログラミング学習教材の研究と開発を共同で推進した結果に生まれたものだ。これが発表されたのは2009年2月12日だが、2007年の夏から進められていたこの取り組みの背景から説明しよう。

理数系離れを食い止めろ――取り組みの背景

 両社がこうした取り組みを行うに至った背景には、生徒の理数系離れが顕著になっていることがまず挙げられる。文部科学省発行の平成18年度科学技術白書では、小学校5年生の時点では60%以上の生徒が理数系教科を「好き」と回答しているものの、学年が上がるごとにその割合が減少し、高校3年生では40%に満たない。科目の内容が高度になるにつれて「理数系離れ」が拡大している。

 理数系離れは情報科学への興味が薄いことにもつながるといえる。IT業界で説明するなら、プログラミングが高度になるにつれ、それは難解なものと化し、理解できる層が先鋭化し、大多数は理解への意欲を失い、使うだけの存在、まさに「ユーザー」と化す。

 だとすると、教育とは何を教えはぐくむものであるべきかという問いが生じる。何かを使うための知識を教える場なのか、それとも、学生が何かを見つけ出すためのアシストを行う場なのかという問いだ。そして、残念なことに、後者の機会を創出することは現実的には困難なことが多いのが事実だ。さらに、正解を選ぶことを求められる現代の教育が失敗への恐怖を生み、試行錯誤を行い新たな価値を生み出す喜びを遠ざけてしまった。それが負のスパイラルを招き、情報科学のユーザー化を加速させているきらいがある。

 経済協力開発機構(OECD)が57の国と地域の15歳男女(日本は高校1年生)約40万人を対象とした2006年国際学習到達度調査(PISA)の結果では、関心・意欲を示す指標は世界最下位で、「理科の勉強は役に立つ」との回答は世界で2番目に少ない、という結果も公表されている。情報科学の知識はあれど、それが探求活動につながっていない状態が発生している。

 もちろん教育界も手をこまねいていたわけではない。生徒の学びの意欲を喚起する体験・探求型の学習機会(場の設置)や、社会と学校の教科学習を結びつける文脈学習なども考案されてきた。

 一方産業界では、マイクロソフトとベネッセという巨人同士が手を取り合った。題材として選んだのは中高生が興味を持ちやすいロボットである。ベネッセは、マイクロソフトから提供されたソフトウェアやコンテンツを基に、教材作成のノウハウを生かしつつ体験型学習教材を開発。『ロボットを作ろう、動かそう〜4足歩行ロボットで学ぶ、情報社会の未来』と名付けられたこの教材は、「ロボットの組み立て」「ロボット動作プログラミング」「ロボットのデザイン」「ロボット競技・プレゼンテーション」の4分野で構成され、3人1組のチームによる実習形式が採られている。プログラミングだけでなく、応用力や創造力、チームとしての協調性などを含めた総合的な能力を育成する教材を作り上げた。

 さらに、ベネッセは全国の学校とのチャネルを生かし、中学校や高等学校に同教材のカリキュラムへの導入提案を実施。その結果、参加した時期は異なるものの、2009年2月現在、西武学園文理、麻布学園、聖光学院、鴎友学園、田園調布雙葉学園、大森学園、宝仙学園、実践女子学園、広尾学園といった私立の9校がそれに呼応した。男子校、女子校、共学校と分布しているのが興味深い。理数科クラスの高校1年生後期〜高校2年生前期で「先端科学講座」(週1回)を開講する学校もあれば、中学3年生で「職場見学」の一環として実施した学校もあり、カリキュラムの実施方法は各校によって異なる。

新たなロボコン、その芽生え

tnfig6.jpg ロボットの操作を行うためのGUIプログラムはVisual Basicで作成。趣向を凝らしたGUIを披露するチームも

 この体験型講座の集大成として、その成果を発表する機会として用意されたのが冒頭で紹介したロボットコンテストで、2月15日に鴎友学園女子中学高等学校で開催された。このコンテストでは、2部門が用意され、1つはロボットによる障害物競走と自分たちが製作したロボットのプレゼンテーションで構成されるスタンダード部門。もう1つは、ロボットの形や特徴的な動作といったカスタマイズ性を競うアドバンスド部門だ。各校から集まったのは70名25チーム(スタンダード部門21チーム、アドバンスド部門4チーム)。

 ここまで「ロボット」と一言でくくってきたが、今回、実際に用いられているのは共立電子産業のロボットベースキット「プチロボMS5」。同社では2007年の夏ごろから部材供給という形でこの取り組みに協力している。プチロボMS5は、5軸の関節自由度を持ち、1万5000円程度と比較的安価ながら、簡単に4足歩行を試すことができるロボットベースキット。今回、プログラミング環境としては、主にVisual Basicが利用された。

 プレゼンテーションは学生らしいリラックスした雰囲気の中で行われたが、ロボットの実際の性能を競う障害物競走は20チームによるトーナメントが行われ、シリアルケーブルで接続されたロボットをノートPCから操作し、ステージ上では「前! 前! バック! 左、左!」といった操作の指示をする声が響いた。

tnfig5.jpgtnfig4.jpg (写真左) ステージ上ではノートPCからシリアルケーブル経由でロボットを操作し、ゴールまでの時間を競った
(写真右)ロボットの一挙手一投足に会場の視線が集中する

 トーナメントで決勝まで勝ち上がったのはともに西武文理の「チーム走り屋」と「ぶんりくぶ」。どちらも手慣れた様子で操作していたが、ゴール寸前で片方のチームがコースアウトし、「チーム走り屋」が優勝を飾った。

 プレゼンテーションを含めた総合評価でスタンダード部門を制したのは、「C3-PO」チームの女子生徒2名。トーナメントでは3位だったが、プレゼンテーションがうまく観客の心をつかんだようだ。

tnfig1.jpgtnfig3.jpg (写真左) スタンダード部門のトーナメントで優勝した西武文理のチーム。左から太田賢志君、畑 聖奈さん、遠山由圭さん
(写真右)総合評価でスタンダード部門を制した田園調布雙葉学園のチーム「C3-PO」。全体的に女生徒の割合が多かったようだった

tnfig7.jpg 「The ヴぁんぱ!?」チームは二足歩行だけでなく汎用的な形を模索していった結果、ロボットを連結させアメーバのような形にするなど、柔軟な発想を披露した。写真は腕立て伏せをするロボット

 一方、アドバンスト部門では、西武学園文理のチーム「The ヴぁんぱ!?」がその多様性を評価されて優勝した。彼らは二足歩行のロボットから4脚(ケンタウロス型、4足歩行と異なり、2本はあくまで補助脚)型、そこから重心を考慮したウミサソリ型、キャタピラでの走行に変化させた無脚型など、科学者らしい“ブレーキの壊れた”発想で多彩なロボットを製作、披露していた。

ロボットは日本のものづくり文化を再び活性させるか

 マイクロソフトとベネッセ。産業界の巨人同士が手を取り合って実現したこの活動。産学連携の事例としても極めて興味深い取り組みだ。そして、こうした活動を自学の生徒に行わせるべきだと考え、導入した現場の教員の情熱にも惜しみない賛辞を贈りたい。

 この取り組みをトライアルとして2007年末から取り入れてきた西武学園文理中学・高等学校の村山高志教諭は、「現場の教師もこうした取り組みの重要性は認識しているしかし、実際に実現するには大変な苦労もある。それでもなお、『やろう!』と教師がまず思わなければならない」と話す。おなじく進路指導副主任の佐野和之氏も「特に今回は第1回ということで、われわれも手探りで進めていったところもある。ドキュメントが整備されているわけでもないので不安もあった。しかし、生徒がロボットに目を輝かせている姿を見ると、こうした体験を生徒には経験させるべきなんだと奮起できた」とこの取り組みの意義を語った。


 日本の神道では昔から万物に魂が宿ると考えられてきた。それなら、ロボットも例外ではない。ロボットは単なる機械ではなく、人間が魂を吹き込むことができる対象なのだ。仏師が木から仏像を削りだしたように、現代を生きるわたしたちはロボットにプログラムという形で魂を宿らせることができる。

 ベネッセの福本氏は鉄腕アトムの話を引き合いに出し、ロボットの可能性を示しながら冒頭に紹介した言葉を述べた。その言葉には続きがあり、「その意味で、この大会はわたしたちにとっても、そして学生にとっても最初の一歩なのだ」と締めくくっている。自ら考えさせ、1つではない答えを探させようとする学生を鼓舞する言葉は、教育界にも向けられた言葉のように思えた。

 教育は与えられるものではない。自分が何を学びたいかを考えることが、ものづくりへと収束していく。独自のものづくり文化を発達させてきた日本において今求められているのはこうした気づきではないだろうか。そうした機会を経験した若者の今後と、この取り組みが継続して行われることを期待したい。

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