医薬品のネット販売は本当に規制すべきなのかネットの逆流(12)(1/2 ページ)

先日公布された省令により、6月から医薬品のネット販売が規制されることになった。この規制は本当に必要なものなのだろうか。

» 2009年02月23日 00時05分 公開
[森川拓男,ITmedia]

ネットの逆流過去記事はこちらです。


 厚生労働省は2月6日、医薬品のネット販売規制強化を盛り込んだ省令を公布した。これにより、改正薬事法が施行される6月から適用されることになる。

 同日、これを受けてYahoo! JAPAN、楽天、MIAU(インターネット先進ユーザーの会)など6団体・企業が「国民の切実な声やわれわれの主張が受け入れられず大変残念」とする共同声明を発表し、省令の再改正を求めている。これらの反発に配慮した厚労省は、専門家による検討会を設置して議論を行うという。

 しかし、検討会を行う前に規制する省令を公布してしまうのは、いささか雑ではないか。実際、2008年から反発の声は出ていたわけで、それらの声に耳を傾けずに、厚労省の事情で決定されたようにも見えてる。

ネット販売継続を求める署名が50万件に

 ケンコーコムなど医薬品をネット販売する薬局・薬店が加盟する日本オンラインドラッグ協会(JODA)は2008年11月20日、「安心・安全な医薬品インターネット販売を実現する自主ガイドライン」を発表した。これは、厚労省が2009年に施行予定の改正薬事法で、医薬品の副作用リスクに応じて「第1類」「第2類」「第3類」に分類し、副作用リスクが比較的高い第1、2類に関しては、店頭などでの対面販売に限定して、ネット販売を禁止する方針を出したことを受けての対応だった。自主ガイドラインで、ネット販売でも安全性を担保できるとし、分類に応じて販売方法も定めている。

 楽天は2008年11月13日、医薬品のネット販売継続を求めたネット署名活動を開始した。Yahoo! JAPANも12月1日に署名活動を開始している。この署名活動は広がりを見せ、2月2日付けではついに30万件を突破、半月後の17日には50万件を突破したという。これを受けて両社は、省令再改正に向けて精力的な活動を続けると表明。

 2月20日、楽天の三木谷浩史社長とJODAの後藤玄利理事長が、舛添要一厚生労働相に、医薬品のネット販売規制の影響などを話し合う検討会についての要望書を提出した。要望書は、2008年12月11日にも、10万件の署名を添えて提出されているが、結果としてそれを無視された形で省令が出されてしまったことになる。今回の要望書の中では、医薬品の通販業者などを加えて検討会を実施し、それをネットでリアルタイム公開することを提示。厚労省が募集している薬事法改正に関するパブリックコメントの結果をすべてWebで公開した上で、寄せられた意見に対する厚労省の回答も明らかにするように求めている。

 確かに、官庁や政府が設置する検討会では、その目的に合致した専門家を中心に人選されることが多く、反対意見が集約、検討されないといった問題点がある。50万件を突破したという署名や、利用者の意見を検討材料に入れてくれるのかどうかが注視されるところだ。

利用者はどう考えているのか?

 今回の医薬品のネット販売規制に対して、ケンコーコムの後藤社長は「ネットで医薬品を購入する生活者とまじめに働いている薬局・薬店を見殺しにする――それが行政のやり方なのか」と、厳しく批判。楽天の関聡司執行役員は「通信販売の特性を活用すれば、実店舗以上に十分な情報提供が可能だ。対面販売でないことに起因する健康被害の実例は1件も確認されていない」と語り、Yahoo! JAPANの別所直哉CCOは「ネット・対面に関わらず、医薬品を販売する際に有効な情報提供の仕組みについて今後議論するべきだ」と訴えている。

 ここまで、医薬品の販売業者と、厚労省の意見を見てきた。それでは、実際の利用者はどうなのか。

 2月12日にケンコーコムが、医薬品のネット販売規制について厚労省が募集したパブリックコメントについて、寄せられた意見2353件のうち、97%が反対意見だったことを発表した。この結果が公開された2月6日、冒頭で紹介したように厚労省は、医薬品販売のネット規制を盛り込んだ省令を公布した。賛成意見ではなく、反対意見が97%も寄せられた内容を強行に押し進めるというのは、いかがなものだろうか。

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