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» 2009年03月09日 08時00分 公開

急遽救世主に:クラウドが救う経済危機下の企業経営 (1/3)

将来の有望な「概念」くらいのニュアンスでとらえられていたクラウドコンピューティングが、世界的な不況により急遽救世主になりつつある。『「クラウド・ビジネス」入門 -世界を変える情報革命』の著者、林雅之氏にクラウドが示す企業経営の未来について話してもらった。

[林雅之,ITmedia]

 米国発の金融危機による世界同時不況が続いている。オバマ新政権の誕生により、この経済危機の打開に向けて、世界中から大きな期待が寄せられている。オバマ大統領は、ブラックベリーを愛用するなどITに明るく、米国全土のブロードバンド化を推進するなどIT政策の展開が期待される。

政府とクラウド

 オバマ新政権は、政権移行時の「Change.gov」のサイトにおいて、Salesforce.comが提供するクラウドコンピューティングサービス「Salesforce CRM Ideas」を採用し、国民からの意見を広く募集するなど積極的なクラウドの活用を行っている。米国国防総省でもクラウドに関する導入の検討を始めており、マイクロソフトやグーグルなどのトップからヒアリングを実施している。さらに、陸軍での新兵募集や、国民調査の管理、物品購入、予算管理などさまざまな領域でクラウドが検討、採用され始めているという。

 日本の政府のクラウドコンピューティングへの対応も少し紹介しよう。総務省が主催するICTビジョン懇談会は2月23日、緊急提言「ICTニューディール」を公表した。この緊急提言の大きな柱の一つに「ICT産業は経済成長の底上げのための強力な手段」という言葉を掲げている。提言の中でICT産業は、景気の好不況にかかわらず経済成長に常にプラスに寄与し、実質経済成長の約4割をけん引しているという。景気の後退局面から脱却するためには、ITが景気の再浮上への成長エンジンになるという期待は大きい。

 このICTニューディールの中において、各府省における業務改革において年間6000億円規模の構築、運営経費がかかっている現在の電子政府の取り組みについて、クラウドコンピューティング技術などの革新的技術を積極的に取り入れ、大幅なコスト削減を目指すべきである点も指摘している。今後「霞ヶ関クラウド」の構築に向けた検討が本格化していきそうだ。また、IT戦略本部がとりまとめをしている新IT戦略においてもクラウドに関する内容が盛り込まれる予定だ。

 クラウドに対する標準化の動きも検討が始まろうとしている。米国標準技術局(NIST)は、2009年後半には政府が外部のクラウドサービスを利用する際のガイドラインを公表することを明らかにしている。日本においては、総務省とASPIC(ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム)が、2009年2月26日、「ASP・SaaS データセンター促進協議会」を設立しと発表し、クラウドコンピューティング利用ガイドの発行などを検討していく計画だ。経済産業省も「グリーン・クラウド」に関するプロジェクトを始めるなど、政府もクラウドに対して積極的な姿勢を見せており、法整備も含めた標準化への期待は大きい。

企業経営におけるクラウド

 一方企業においては、未曾有の経済危機により、企業存続の生き残りをかけ、IT投資を凍結し、コスト削減による合理化を進めている。このような環境下においては、企業が新規にITへ投資し、独自にシステムを構築し運用していくということは非常に厳しい状況だ。各社の経営者や情報システム部門担当は、多くのIT投資が凍結する中において、将来どのようにITを経営に活用していくのか、十分検討していかなければならない。

 システムインテグレーションやクラウドサービスを提供する側は、顧客がどのようにITを活用すれば、企業の生産性に寄与できるのか。これまで以上に高いコンサルティング能力が求められるようになる。SE(システムエンジニア)などの場合は、クラウドサービスと既存システムをどのように連携させるかといった、システム連携やサービスをデザインする能力が求められるようになるだろう。クラウド時代のIT業界の人材像の在り方についても議論が始まっている。

 ここ最近、クラウドコンピューティング関連のセミナーの多くは、申し込みが殺到し会場はいつも満席の状態が続いている。書店に行けば目立つところにクラウド関連の多くの書籍が平積みになっており、売り上げランキングの上位にも顔を出している。

 この時期に、クラウドコンピューティングがここまで大きな注目をされているのは、未曾有の経済危機の中、ITへの投資が難しく、ITを柔軟な活用にシフトさせていくことが必要だと考えており、さらには、企業がコアコンピタンス(自社の核となる強み)の領域に集中し、健全な企業運営と事業転換をはかっていくための必要不可欠な経営戦略ツールであると考えているからではないだろうか。企業がITを駆使することによって、斬新なビジネスモデルを取り込み、新たな成長への備えをしていくことが、企業経営において重要なポイントとなっていくだろう。

 クラウドサービスを提供する側にとっても新たな成長市場として注目をしている。熾烈な競争も予想され、積極的なサービス開発やパートナー戦略、営業展開を急いでいる。

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