経営戦略と環境戦略は不可分――富士通 高橋常務理事(前編)日本のCGO(1/3 ページ)

国内企業における環境負荷低減への取り組みで一歩先を行く富士通。そのCGO(チーフ・グリーン・オフィサー)ともいえる高橋常務理事は「経営戦略と環境戦略は不可分。環境負荷低減を進めることがビジネスを活性化する」と指摘する。

» 2009年07月01日 08時00分 公開
[聞き手:石森将文,ITmedia]

 グリーンITというキーワードが登場して久しい。しかし企業においては、この不況を乗り切るためのコスト削減や業務効率化という「直面する課題」への対応で手いっぱいという現状もある。富士通 環境本部の本部長を務める高橋淳久氏(「高」は、はしご高)は「経営戦略と環境戦略は不可分。環境負荷低減を進めることがビジネスを活性化する」と提言する。名実ともにCGO(チーフ・グリーン・オフィサー)である氏に、富士通の取り組み、自信の信念について話を聞いた――。

各レイヤーの省エネで、消費電力を“10の3乗分の1”まで減らす可能性

富士通常務理事 環境本部本部長 高橋淳久氏 富士通常務理事 環境本部本部長 高橋淳久氏

ITmedia 米国では政権も変わり、グリーンニューディールという旗印の下、マクロな視点で環境政策が進んでいます。国内の状況をどのように見ていますか。

高橋 日本の場合、「オイルショックを乗り越えた」という歴史的経験があります。これが官民問わず、省エネに対する貴重な経験になっていて、その流れが現在へと続いている。例えば「環境対策課」的な組織が各官公庁に存在していることがその証左です。

 ただ、縦割り行政の良くないところと言うべきか、各官公庁主管の業務なり規制対象となる企業に対してなりは非常によい働きをしているけれども、それを全体として、つまり国の方針としてまとめ上げるといった取り組みが、これまでは薄かったかもしれない。外に向かって、つまり国際的にメッセージを打ち出すことは少なくて、国内の問題にしっかり取り組むことに終始した印象があります。

 日本のメーカーは、従来から素晴らしい省エネ技術を持っていました。しかし振り返ってみれば、行政による“ある意味”素晴らしい省エネ規制があって、それにメーカーが追随して、消費者もそれに価値を見出して、というようなサイクルにすぎなかったのかもしれません。

 いま求められていることは、行政と民間の“サイクル回し”ではなく、環境に対し「この国がどう取り組むべきか」という方針をトップダウンで示すことだと考えます。

ITmedia 例えば家電製品に実装されている技術でも、日本市場では実装が当たり前でもグローバルに見れば画期的、という技術が複数あります。省エネ視点での技術交流、製品展開をすることでもプレゼンスを示せるのではないかという期待があります。

高橋 例えばグループ会社の富士通ゼネラルでは、省エネ機構で他社に引けを取らないエアコン製品を開発し、それを“売り”にしてもいます。こういった技術なり製品なりの開発姿勢を、自社だけでなく広い視点で展開することが必要なのでしょうね。ただ、家電製品もIT製品も、消費電力の削減という意味では、従来のおよそ10分の1にするのが技術的限界かもしれません。特にIT製品については、新興国での利用拡大などにより、個々の機器の消費電力が10分の1程度になっても、とても追いつきません。IT製品については、システム全体での消費電力が従来の“1000分の1”とか“1万分の1”といった世界を実現しないと、「2050年までにCO2排出量半減」という目標達成は難しいだろうとわたしは考えています。

 そのためにわたしは、「ITのレイヤーごと省エネ」を考える必要があると思います。

 ネットワークのレイヤーを例に挙げます。ネットワークの機器、例えばルーターの消費電力は10分の1にできる。この連鎖で、ネットワーク全体をうまく省エネできるはずです。次いで、そこに別のプロトコルを組み込み、プロトコルのレイヤーで省エネを進める。具体的には、ネットワーク上に流れるコンテンツレベルでの省エネができるかもしれません。

 このような考え方で省エネを進めれば、高度なレイヤーまで省エネの連鎖を続けられるのでは、という気がしています。それぞれのレイヤーで省エネを進めれば、結果的に“10の3乗分の1”とか、ひょっとしたら“10の5乗分の1”といったレベルの省エネができると考えています。

 そしてこの考え方は、われわれが打ち出しているグリーンITプロジェクト「グリーン・ポリシー・イノベーション」にも通じます。グリーン・ポリシー・イノベーションでは「ITの」という機器自体の省エネと、「ITで」という機器を組み合わせたソリューションでの省エネという表現をしていますが、これも“レイヤー”の考え方を取り入れることで効果を最大化できるはずです。

富士通による環境負荷低減プロジェクト「グリーン・ポリシー・イノベーション」のコンセプト
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