インタビュー
» 2009年09月09日 08時00分 公開

ターボリナックスは終わってしまったのか? (1/2)

「もうLinuxをやめるのではないか」「日本でのビジネスを考えていないのではないか」――ターボリナックスに対して向けられるこれらの声は真実なのか。Linuxディストリビューターとしての矜持は今自社をどういった方向に向かわせようとしているのだろう。

[西尾泰三,ITmedia]
矢野広一氏 「Linuxプロダクト事業は“売る”から“使う”に。ただし開発はやめない」と矢野氏

 「ターボリナックスはもうLinuxプロダクト事業をやめるのではないか」あるいは、「もう日本でのビジネスを考えていないのではないか」――ここ数年来、市場ではターボリナックスに対してこのような見方をする向きが多かった。事実、同社はここ数年、事業の軸足が必ずしも定まってはいなかったといってよい。wizpyを例に挙げるまでもなく、Linuxプロダクト事業の転換を図ろうとしていたのは明白だったが、その具体的な転換がはた目にはみえづらい状況が続いていた。

 2009年5月に同社は持株会社制に移行。それにより社名をTLホールディングスに変更し、併せて、Linuxプロダクト事業を分社化し、子会社として「ターボリナックス」を設立している。ターボリナックスの一連の動きは何を意味しているのだろうか。同社代表取締役社長兼CEOの矢野広一氏に聞いた。

Linuxプロダクト事業は“売る”から“使う”に

―― ターボリナックスに対する市場の関心の1つに、Linuxプロダクト事業を今後どのようにするのかという点が挙げられます。

矢野 ターボリナックスがもともと中核に据えていた領域は、Linux OSの販売・サポートでした。ライセンスも売り切りというモデルです。しかし、SaaSの隆盛が示しているように、昨今はライセンスを買うのではなく、サービスを利用するモデルに移行してきています。わたしたちが現在チャレンジしているのは、オープンソースのパッケージを切り売りするのではなく、サービスとして利用して収益を上げていくことです。オープンソースのコアな部分を“売る”から“使う”へシフトさせたいと考えているのです。

―― 従来考えられていたLinux/OSSのビジネスモデルでは限界があると?

矢野 ソフトウェアを開発してそれを売るという二次元的なビジネスモデルはきわめて厳しい状況にあると思います。Linux/OSSのビジネスモデルは1990年代からさまざまな議論が重ねられてきましたが、現段階では、(Linux/OSSを)“売って”利益を上げようとしたRed HatやNovellと、“使って”利益を上げようとしたGoogleやAmazonとでは、事業規模は有意な差となって現れています。Linuxディストリビューションをライセンスモデルで提供して生き残っているといえるのは、Red Hatだけといってもよいのではないでしょうか。

 ここで考えるべきは、1社しか収益が上がらないビジネスモデルというのは、やはりどこかいびつであるということです。一方、Linux/OSSを使って収益を上げているプレイヤーはそれなりの数が存在しています。われわれは、Linux/OSSを“売って”収益を上げるのではなく、プロフィットレシオが順調なLinux/OSSを“使う”事業モデルにシフトしていこうとしているのです。Linux/OSS関連のビジネスをやめるわけではないということを強調しておきたいと思います。

―― 具体的に“使う”モデルとしてどういったビジネスを考えているのですか?

まもなくサービスインを迎える「渋谷網」。EC-CUBEで構築したサービスを使った収益モデルだ

矢野 当社の連結子会社である「CJ-LINX」がそのモデルケースとなります。CJ-LINXは、日系企業が中国に進出する際のトータルなビジネスプラットフォームを提供することを目的としています。具体的には、中国武漢政府が主導する企業間取引(B2B)サイト「中国漢正街電子商務平台(漢正街)」を間借りする形で日系企業を露出する専用のサイト「渋谷網」をOSSのEC-CUBEで構築、まもなく開始します。漢正街はファッションや雑貨が専門の卸サイトですが、われわれはそこにしぼって戦略を展開していきます。

―― B2Bのビジネスマッチングという意味では、アリババのような巨大なサービスがすでにありますが、どのような違いがあるのですか?

矢野 トータルなビジネスプラットフォームを提供しようというのがCJ-LINXの狙いです。アリババはバイヤーが数万社規模で存在する巨大なサイトですが、あまりにも規模が大きいため日系企業の露出が少なくなり、結果として売れないという声も聞きます。また、アリババはマッチメイキングなので、商談、物流、税関、通関は自分たちで行う必要がありますし、現地に会社を作りたいといったときには縁が切れてしまいます。

 一方われわれは、日本企業が中国でビジネスを展開する上で必要なサービスを複合的に提供することを目指しています。輸入免許がなくとも(中国人バイヤーが)買える仕組みを用意したり、決済部分は中国電信集団公司グループが提供する「電話財布」による料金回収を用いるなど、摩擦なく中国ビジネスが行えるように1つずつ時間を掛けて構築してきました。

―― アリババタイプの大きなサイトもあれば、特化型のサイトもあるということでしょうか。中国市場の大きさを考えれば、それぞれの役割があるとは思いますが、どういった強みが自社にあると考えていますか?

矢野 先ほどお話ししたトータルなビジネスプラットフォームというのが強みであると考えます。中国は現在、ホットマネーが潤沢で、国内での需要はきわめて旺盛であり、マーケットとしては魅力的であるのは間違いありません。オンラインの販売市場もこれから大きく成長するでしょう。飽和している日本のマーケットの出口を求めて中国に視線を向けるのは当然のことだと思いますが、外資がそこに参入しようとする際は中国独自の参入障壁の高さがあり、競争は厳しいというのが現状です。

 また、中国では、物販業を行うに当たっての最低準備金が20万ドル、弁護士費用や登記費用などが同じくらい掛かりますので、最低でも40万ドル、約4000万円掛かるわけです。すでにクライアントがいるのであればリスクはないですが、これから中国で物を売ろうというときに4000万円もの投資に頭を悩ませない中堅中小企業はいないでしょう。

 渋谷網は、5万円からの投資で出店することができます。つまり、日本にいながらテストマーケティング的な使い方ができるのです。われわれの最終的な収益は現地で会社をセットアップするお手伝いや人材の派遣といった部分で上げたいと考えていますが、渋谷網では年間で100億円程度の取扱高、参加企業数でいえば2010年の末までに200社を目指しています。月間の取扱高の5〜8%の手数料をいただくモデルを考えており、売り上げ的には2011年に既存のライセンスモデルと拮抗(きっこう)するところにまで成長するとみています。

―― 市場ではターボリナックスが日本でのビジネスをあきらめているのではないかと考える向きもあるようですが、そうではないということですね。

矢野 渋谷網は中国という「出口」を利用しているのであって、その会員は日系企業となります。よって、われわれの顧客というのは、やはり日本に存在するのです。ここは誤解を持たれやすいところなので、そうではないとはっきりとお伝えしたいと思います。

 われわれは従来のレガシーなライセンスモデルから“進化”しているのであって、変化しているわけではない、ということを改めてお伝えしたいと思います。私自身、「Change」という言葉はあまり好きではありません。過去を捨てているわけですから。われわれが考えるべきは“進化”。そういう意味でCJ-LINXは過去のターボリナックスを捨てたのではなく、進化しているととらえていただきたいと思います。

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