少し忘れられていたLotus Foundations ── 簡単Notesはニッポンの中小企業を変えるのかe-Day

Notesのコラボレーション機能などをパッケージ化したオールインワン型のソフトウェア製品群である「Lotus Foundations」が東京のカンファレンスで発表された。クラウド人気の陰で少し忘れられていたNotesアプライアンスはニッポンの中小企業を変えるのか。

» 2009年09月09日 11時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 先週、「変わるLotus Notes、変わろうとしている日本企業」を書いたが、9月8日に都内で行われた「Working Smarter Forum 2009」に足を運んでみると、IBMは「Lotus Foundations」を、その位置付けを変えて日本デビューさせてきた。

 Lotus Foundationsに馴染みのない読者も多いだろう。これは電子メール、カレンダー、掲示板などのコラボレーション機能やファイル共有機能、さらにはオフィススイートのLotus Symphony、ファイアウォール機能などをパッケージ化したもので、米国市場では2008年1月の「Lotusphere 2008 Orlando」で発表されている。

 Lotusphereのオープニングセッションで当時、IBM Lotusソフトウェア部門のGMだったマイケル・ローディング氏が、TVセットトップボックスような小さな黒い箱に「Lotus」の黄色のラベルを貼り付けたモックアップを掲げ、自慢げに披露していたのを思い出す。管理者要らずでNotesを簡単に使い始められるLotus Foundationsは、IBMとしてはあまり手が付けられていなかった300人未満の中堅および中小企業市場を狙う意欲的なアプライアンス製品だった。

 Lotusphereで披露されたのがモックアップだったのには理由があった。Lotus Foundationsは、Net Integration Technologiesという会社の製品をベースとしていて、IBMによる買収がLotusphereのわずか数日前に明らかにされたばかりだった。Linuxベースの自律型OSである「Nitix」を採用しており、面倒な管理が不要なのが最大の特徴だった。もちろん、Net Integration Technologies時代のアプライアンス製品にもアプリケーションとしてLotus Notes/Dominoが組み込まれていた。

セットトップボックス化は見送られたが

 同じ年のLotusphereで、やはり中堅・中小企業を狙い、β版が発表された「LotusLive」(当時のコードネームはBluehouse)が、その後のクラウド人気もあって注目を集めているのとは対照的で、Lotus Foundationsは少し忘れられていた存在と言ってもいいだろう。

 残念ながらあの可愛らしいデザインは、ついに日の目を見ることもなかった。TVセットトップボックスのような製品では、売り切り商品のイメージが強く、パートナーらの評判が良くなかったのかもしれない。そもそもストレージをどうするのか、であったり、売り物とされていた定期的にディスクをバックアップしてくれる機能をどう実現するか、など無理があったのかもしれない。

 しかし、IBMでは、x86サーバであればほかのベンダーのハードウェアにも搭載できるオールインワンのソフトウェアパッケージに仕立て上げたほか、Lotus Foundations用に構成を合わせたサーバマシンも製品化してきた。このサーバマシンを使えば、簡単な操作は液晶パネルで行えたり、電源を落とさずに交換できるバックアップ用のハードディスクドライブを搭載するなど、使い勝手や信頼性を高めることができるという。

 専用のフラッシュメモリにOSを搭載していることも、このサーバマシンを使うことの大きな差別化要素となる。障害時にもマシンをブートさせれば、ネットワーク接続を自己設定し、リモートから診断・修復できるようにしてくれる。専門のITスタッフがいない中小企業にとっては、導入が簡単なだけでなく、運用管理の手間も省けるというのはありがたい。また、IBMのパートナーからしても、売り切りではなく、運用管理のサービスを提供していけば、顧客との関係がずっと続くことからビジネスとして旨味もある。

 気になる価格だが、サーバライセンスが3万2800円、これに1人当たり2万1400円のユーザーライセンスを足していく。専用のサーバマシンは25万円。もちろん別途サポート料金は必要だが、価格的にもなかなか魅力がある。「SaaSのLotusLiveはちょっと……」という中小企業には、選択肢の幅が広がる(もっとも肝心のLotusLiveは日本では提供されていないが)。

IT活用ではアジア企業にも後れを取っていないか

 Lotus Notesというと、日本では電子メールやスケジューラーといったイメージから抜けきれていないが、Lotusソフトウェア部門でワールドワイドサービスを担当するジョン・アレッシオ副社長は、「欧米の顧客企業では、インスタントメッセージングのSametimeやソーシャルソフトウェアのConnectionsなどを統合化できる“プラットフォーム”として最新のNotes/Domino 8.5を捉えている」と話す。

 米国のある小売り大手では、業務アプリケーションをSOAアプローチで構築、フロントエンドにNotesを採用してサービスを組み合わせる、柔軟なシステムを構築しているという。アジアの企業も負けていない。インドの通信大手であるBharti Airtelでは、WebSphere Portalで契約者ごとにカスタマイズされた情報を提供し、満足度を高めているという。聞けば、IBMは今年、アジア地域では初めてとなる「Portal Excellence Conference」を中国・マカオで開催したという。

 決してIBM Lotusの製品群を使えと言っているのではない。それがMicrosoftの製品であっても、Googleのサービスであってもかまわない。ただ、最新のITを活用するという点で、日本企業がアジアの企業にも後れを取り始めているのではないかと心配になってくる。

 Lotus Foundationsも、単に電子メールやカレンダーの機能にとどまらず、コラボレーションのスピードをさらに加速したいというニーズが生まれてくれば、Sametimeのリアルタイムコラボレーション機能を統合化できる追加オプションも用意する。コストに着目することももちろん重要だが、アプライアンスやSaaSは別の視点が必要だろう。ITの敷居が下がり、その活用が進めば、日本の中小企業の働き方も変わるはずだ。

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